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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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無限への誘い(1)

 

 新しい胞宇宙(セルベル)、ティムナーに入ってすぐ、タケルヒノは全員をミィーティングルームに招集した。

 いつもの説明会と言えばそれまでだが、今日はいつもと様子が違う。

 皆が囲むテーブルの真ん中に、ダーの作ったドーナツの山がうず高く積まれていたのである。

「これから、ティムナーに乗り捨てられた第一光子体(ピスリーニア)の宇宙船の探索に出ようと思うんだけど」

 いちおう、タケルヒノの言葉は耳に入っているようだが、皆、もそもそと口を動かすのに忙しく、あまり反論は出てこない。ジムドナルドだけは、テーブルに着かず、いつものソファに寝転びながら、脚にじゃれつくヒューリューリーを蹴飛ばしている。

「アグリアータとラクトゥーナルの話しは、どうにも不正確な部分が多いんで、手探りでいくしかない。いきなりはどうかと思うんで、情報キューブから拾える範囲で調べてみた」

 壁スクリーンに映し出される、ティムナーの情報。主星から連なる、惑星の1つが赤いサークルで強調された。

「これが、ティムナーの第4惑星。最内軌道に第1惑星と第2惑星が連星系を作っているので、軌道としては地球と同じくらいと考えてもらったほうがいいかな。生物が生息していて、知的種族がいる。文化レベルとしては、内燃機関の発達に支えられた鉱工業が主体の発達途中段階、コンピュータによる情報産業の成立前ぐらいだ」

「なかなか微妙なとこだな」

 ジムドナルドが頬杖をついて半身を起こす。

最初の光子体(ピスリーニア)としても手が出しづらいトコだ」

「ほぅひゅうほろれすは?」

 食べるかしゃべるか、どっちかにすればいいのに。イリナイワノフは思う。サイカーラクラのこういうところがイリナイワノフにはよくわからない。美人なのに。

「その星が、どういう進歩をするのか、っていうのは、その星の住民次第なので、外野がごちゃごちゃ言うことではないんだけど」

 タケルヒノもそういうことには無頓着なので、まったく普通にサイカーラクラに説明する。

「少なくとも、順調に行ってるものに、いらぬ手出しをすると、後でとんでもないことになるので、こういうのは放って置くのがいちばんなんだ」

「でも、次元変換エネルギーを使い出したって話だろう?」

 ボゥシューは食べかけのドーナツを自分の皿に置き、紅茶を飲んだ。

「それって、いいのか? バランスを崩すもとじゃないか?」

「そう、そこがおかしい」

 タケルヒノは言った。

「ティムナーの住民が、第一光子体(ピスリーニア)の宇宙船を利用したってアグリアータは言うけど、それって…」

「無理だよね」

 ジルフーコが断言した。

「内燃機関でプロペラを回して、やっと空が飛べるようになったくらいの技術レベルじゃ、胞障壁(セルレス)踏破が可能な宇宙船にたどり着くなんてできるわけがない。たとえ、そっちがどうにかなったとしても、エネルギーの受け側の装置を作れっこない。何から何まで、おかしな話しだ」

「まあ、そいうこと」

「じゃあ、どういうことなんだ?」

最初の光子体(ピスリーニア)の宇宙船をいじって、いろいろやってるのはティムナーの奴らじゃないってことだ」

 ジムドナルドは欠伸して、ぐるりとヒューリューリーを右腕に巻きつけると放り投げた。

 ヒューリューリーは宙で自分をほどき、伸びやかにテーブルの側の床に着地する。

「おい、ヒューリューリー」

 ジムドナルドが言った。

「俺にもドーナツ取ってくれ」

「アイ、アイ、サー」

 ヒューリューリーは、ひときわ大きなドーナツの穴に自分の頭を突っ込んだ。

 そのまま上半身を引き上げると、ドーナツが首?のあたりに引っかかる。

 そのまま、いそいそとジムドナルドのもとに向かうヒューリューリー。

 ジムドナルドはヒューリューリーの首にかかったドーナツに視線を向けた。

「なんか、急に食欲なくなった。お前、それ、食べていいよ」

「どうやって食べたらいいでしょう?」

 ヒューリューリーは体をゆすったが、ドーナツは上にも下にも動かない。

「ヒューリューリー、こっちこいよ」

 自分のドーナツを食べ終えたビルワンジルが言う。

「オレが食わしてやるから、さすがにそれじゃ、自分じゃ食べにくいだろ」

 

「ごちそうさま、おいしかったですよ」

 礼を言うタケルヒノを、ダーはじっと注視した。

「タケルヒノ、あなた、本当にドーナツ食べました? ずっと、話してたところしか見えなかったのですが」

 え? という顔で、タケルヒノはダーを見返した。

「もちろん、食べましたよ。シナモンの香りがして、とてもおいしかったです」

「シナモンではなく、アザカスですが。地球のシナモンと香りの成分は同じです。そこまで、言うのなら、ちゃんと食べたんでしょうけど」

 ダーは、ケミコさんのボディには不釣り合いなほど、全身から虚脱感を漂わせていた

「本当にあなたは不思議です」

「何がでしょうか?」

「わたしやサイカーラクラより、人間っぽくありません」

「そう言われても…、それは、あなたやサイカーラクラが妙になまめかしいというだけで…」

「まあ、そんなことはどうでもよろしい」

 ダーは自分のことは、さっさと棚に上げた。そういうところが人間臭いというのなら、確かに自分は人間ぽくはないかな、とタケルヒノは思う。

「それで、大丈夫なのですか?」

「はい」

 ダーの質問に、タケルヒノは即答した。

「ティムナーの住民でないとすれば、こんなことができるのは光子体(リーニア)だけです。相手が光子体(リーニア)なら、こちらが気をつけていれば、特に心配はいりません」

「では、わたしは心配しなくて良いのね?」

「いえ、心配してください」

「何を?」

「ボゥシューとサイカーラクラのことを」

 ダーは押し黙った。ダーが途方もない計算をしているであろう合間に、タケルヒノは手短に話す。

「あの2人は、いま、あなたに頼りきっていますから、今のうちになんとかして欲しいんです。あなたがいる間にです」

「わかりました」

 ダーは計算を打ち切って答えた。

「なんとかします」

「あ、それから」

 調子に乗ったタケルヒノが付け足した。

「ついでにジムドナルドも、なんとかしてもらえると、嬉しいんですけど」

「お断りします」

 ダーは冷たく言った。

「ジムドナルドは、あなたが、なんとかしてください」

 

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