表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/251

複合衝撃(3)

 

 ボゥシューが、ミーテイングルームのモニターで、惑星の様子を眺めている。

 小さめのモニターということもあるが、衛星の追突の瞬間はよくわからない。落下中は大気との摩擦で線状光が尾を引くが、強いて上げれば、それが消えてしまった瞬間が衝突である。

 2つの衛星が同時に地表に到達し、しかもちょうど反対の位置に落下するよう調整されているため、1視野では、ひとつの衛星の衝突しか観察できない。いちおう両方追尾しているが、2画面同時でも大差はないので、ボゥシューは大きい方の衛星だけ見ていた。

 衝突からしばらくすると、落下点付近が霞がかかったようにぼやけだし、やがてそれは濃く、黒灰色の雲となって惑星全面を覆っていく。裏側からのもうひとつの月でできた黒雲も合わさって、惑星はすっかり雲に覆われてしまった。

 黒雲の下、ときおり暗褐色の光が、斑点のようにところどころに浮き出ては、ゆっくりと雲の下を移動していく。そこから先は、かわりばえしない映像が続く。

「なんだか、ずいぶん早いなあ」

 ボゥシューの肩越しにモニターを覗いていた。タケルヒノが寸評した。

「300倍速再生だからな」

 ボゥシューが振り返った。

「1日が5分、1ヶ月が2時間半だからこんなもんだ。あと、どれくらい見てれば、この雲は晴れる?」

 うーん、とタケルヒノは腕組みした。

「300倍なら10万年くらいかな」

「気の長い話しだ」

 ボゥシューは立ち上がると、ビュッフェのほうに目くばせした。肯いたタケルヒノは、ボゥシューについてビュッフェに入った。

「コーヒーでいいのか?」

 ボゥシューは自分の苺シェークを入れてからタケルヒノに聞いた。

「僕も同じので」

「苺シェーク?」

「そう」

「珍しいな」

 たまにはね、と笑ったタケルヒノはボゥシューの向かいに腰掛ける。

 ボゥシューはシェークカップをタケルヒノの前に置いた。

「また、安請け合いしたみたいだな」

「何のこと?」

「ティムナー」

 ああ、と素っ気なく言って、タケルヒノは苺シェークを一口飲んだ。

「こればっかりは、しょうがないしなあ。あの2人も辛そうだったし」

「2人?」

「アグリアータとラクトゥーナルが来たんだよ」

 タケルヒノは、わざわざ古い方の名前で言った。

「あの2人、嘘つくの下手だからなあ」

「なんでまた、そんなことに?」

「うーん、あの2人が、嘘ついたっていうより、嘘ついてるのは第一光子体(ピスリーニア)だしなあ」

「なんで、第一光子体(ピスリーニア)が嘘つくんだ?」

「なんで、って、あの人、嘘つきだもの」

 タケルヒノは苺シェークを飲み干して、自分でおかわりを注ぎに行った。帰ってくるなり、続きを話しだす。

「本当のことと嘘と2つあって、結果が大差ないんなら、必ず嘘つくんだよ、あの人。大抵のことは、本当のこと言ったほうが、面倒がないから、叔父さんも普段は本当のことしか言わないけど、機会があれば嘘つくんだ。今回は特に嘘のほうが面倒が少ない稀有な例だから、こんな機会をあの人が逃すはずがない」

「意味がわからんな、なんで、そんなに嘘をつきたいんだ」

「そりゃあ、嘘ついたほうが楽しいからに決まってる」

 突然、現れた、ジムドナルドが、コーラをがぶ飲みしながら、大笑いする。

「嘘ってのは、楽しいからな。俺の知ってる嘘つきは、みんな陽気なヤツばっかりだ」

「そうか? 嘘つきは自滅してるヤツしかみたことないが?」

「そりゃあ、ボゥシュー、嘘じゃなくて、言い逃れ、って言うんだ」

 ジムドナルドはまた笑う。

「言い逃れは、嘘なんて高級なものじゃない。言い逃れするような奴は馬鹿ばっかりだからな。言い逃れ、っていうのは嘘と本当の区別がついてない奴のすることで、嘘つくのは、馬鹿じゃできないよ」

 ジムドナルドの言に反論するのも馬鹿馬鹿しくて、呆れ顔でボゥシューが黙っていると、間を抜いて、タケルヒノが小声で言った。

「だからね。この件は僕がなんとかしないと、ジムドナルドが首突っ込んでくるんだよ。彼は嘘つきが大好きだからね」

「それだけは、なんとなくわかる」

 ボゥシューは苺シェークに口をつけたが、中身は半分も減っていない。

 

「ヒューヒューさんはザワディが好きですね」

 いつもどおり、ザワディに巻き付いている、ヒューリューリーを見て、サイカーラクラが言った。

「もちろんです」

 ヒューリューリーは巻きつけに使っていない上半身をぶんぶん回した。

「大事な友だちなのです」

「巻き付くと気持ち良いからですか?」

「いえ、巻き付くだけなら、ジムドナルドのほうが良いですね」

「では、ジムドナルドと違って、ザワディは嘘をつかないから、好きなのですか?」

「え?」驚いたヒューリューリーの旋回が弱まった「ザワディは嘘つきますよ?」

「え?」

「ボゥシューにご飯をもらったあと、よく私の所に来るのです。ご飯、ぜんぜんもらってませんよ、という顔をします」

 あぉん、とザワディは悲しそうに啼いた。

「すごいですね」

 サイカーラクラは言った。宇宙にはサイカーラクラの知らないことが、まだ、たくさんある。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ