複合衝撃(1)
「やあ、こんにちは」
フラインディルがぎこちない笑みを浮かべて現れた。当人も不自然なのは意識しているようなので、ジルフーコは、そこには突っ込まないことにした。
「何か用?」
「あなたたちが、面白そうなことをしている、とリーボゥディルに聞いたので…」
「リーボゥディルは? 見当たらないみたいだけど」
「スラゥタディルが見ている」
フラインディルは少し視線をそらした。
「その…、レウインデも来ているようだし危険だから、と…」
ふーん、と、ジルフーコはメガネの奥から、フラインディルの目を覗きこんだ。またフラインディルは視線をそらす。
「で、今日は、どっちの用事で来たの? フラインディル? それとも、ラクトゥーナル?」
「いや、どっちとか…、そういうことではなくて…、純粋に、興味があるというか、その…」
フラインディルはあからさまに、狼狽しだした。ジムドナルドとかとは正反対だよなあ、こんなんで、よく、第一光子体の補佐なんかできたな、などとジルフーコは考えていた。
「ま、ゆっくりしてってよ」
ジルフーコは言った。
「忙しくなったら、あまり相手できないと思うけど、手が空いてそうなときは、いつでも声かけて」
「ありがとう、もちろん、ジャマする気はないんだ。それで、その…」
「計画はここにまとめてあるから、適当に見て」
ジルフーコの示した情報キューブの領域に、フラインディルは接続した。
光子体は情報キューブに直接接続できる。傍から見たフラインディルは、中空のあらぬところを見つめながら、ほぉ、これは…、いや、しかし…、などと勝手にブツブツ言っているわけで、なかなかにジャマである。
ふと思いついたジルフーコは、何の気なしにフラインディルに尋ねてみた。
「まさか、スラゥタディルに内緒で来たわけじゃないよね?」
一瞬、フラインディルの結んでいた像がぼやけ、すぐさま原形を取り戻したものの、続いて激しく明滅しだした。
「そ、そんな…、ことは…、絶対、ない…」
「なら、いいけど」
わかりやすいなあ、とジルフーコは思った。余計なお世話だろうが、ついつい口を出さずにはいられない。
「ボクには、関係ないけど。帰るまでには、言い訳ぐらい考えておいたほうがいいんじゃない?」
「ラクトゥーナルが来てますね」
ダーはそう言ってから、少し考えたようだ。
「フラインディルのほうが良いのかしら?」
「ラクトゥーナルで良いと思いますよ」タケルヒノは答えた「リーボゥディルのことで来たわけではないようですからね」
「すこし、お説教が足りなかったでしょうか?」ダーは不満げだ「それとも第一光子体に言われてきた?」
「違うと思いますよ。第一光子体に頼まれたのなら、ジルフーコじゃなくて、僕のところに来ると思います。レウインデも、今回はただの物見遊山だと思いますね。彼も、宇宙皇帝に言われたときは、ちゃんと僕のところに来ますから」
「レウインデも来てたの?」
「はい」
「困った人たちですね」
「はい」
ダーはケミコさんのボディを使っているので、もちろん表情などないわけだが、幼稚園の園長先生が、子供たちを叱る様を、タケルヒノは思い浮かべて苦笑した。
「ラクトゥーナルとレウインデが自分たちの興味だけで、やってきたのだとしたら」
ダーは言ったが、別に彼ら2人のことを思いわずらっているのでないことは、タケルヒノにもわかっている。
「そうすると、宇宙皇帝や第一光子体は、今回のあなたの企てには興味ないということ?」
「興味はあるでしょうが、何をするかはわかっているはずなので、彼らが知りたいのは結果だけでしょう」
「結果がわかるまでには長い時間が必要です」
「だから、今回も、彼らは来ません」
「結果が必要なのではないの?」
「結果というのは、うまくいったか、何をやったかではないんです。誰がやったか? あの2人の興味は、僕がやったかどうかだけですから」
「それで、海を造ろうと思ったの?」
タケルヒノは笑った。ダーの言わんとすることはわかるが、そうではないのだ。
「海がなかったのが、寂しかっただけですよ。海というか、湖ですけどね」
ダーの動作が一瞬止まった。それほどに、ダーにとってもタケルヒノの言葉は意外だった。
「あの娘たちの言ってたことが、本当だったということ?」
「その噂、僕も知ってます」タケルヒノは重ねて笑った「本当、ではありませんが、かなり近いですよ」
そして、タケルヒノは笑いながら、小声で付け足した。
「みんなには、内緒ですよ」
「どうしてです?」
「だって」タケルヒノは、はにかみながら答えた「恥ずかしいじゃないですか」




