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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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3つの月(4)

 

 ボゥシューは3人の部屋で、ベッドに寝転び、ぼーっとしていた。

 サイカーラクラが来て、ベッドの隣にあるボゥシューのロッキングチェアに腰掛ける。

「今日は何だか疲れました」

 サイカーラクラは体を前後させて、ロッキングチェアを揺らす。ボウシューは横になったまま、サイカーラクラのほうに顔を向けた。

「ワタシも疲れた」

「そうですか」

 ボゥシューは、メトロノームのように揺れる椅子とサイカーラクラを眺めていた。

「タケルヒノに重中性子体(レビフォノア)のことを聞いた」

「なるほど、それで…」

 サイカーラクラはボゥシューのほうに顔を向ける。サイカーラクラの顔が椅子と一緒にゆらゆら揺れる。

重中性子体(レビフォノア)の話しは私も疲れます。無限大の話しは苦手なのです」

重中性子体(レビフォノア)が無限大のエネルギーを使えるのは知ってた?」

「ええ」

 サイカーラクラは椅子を揺らすのをやめた。

「私は励起子体(パウフラニア)。対重中性子体(レビフォノア)仕様の情報体(リーンファノア)です。だから、少しは知っています」

「恐くはない?」

「さあ、どうでしょう?」

 サイカーラクラは、また揺れ出す。

「別に無限大のエネルギーなんて、重中性子体(レビフォノア)だけが使えるというものじゃありません。そもそも、宇宙船(ボード)のエネルギーのもとが次元変換駆動機関ですから、これもエネルギーとしては無限大です。無限大なので私にはよくわからないのですけど。それに、対重中性子体(レビフォノア)仕様と言っても、絶対に、重中性子体(レビフォノア)と戦わなければいけないというものでもありませんし、嫌なら会わなければいいだけです」

「なるほど」

「それにジルフーコが言うには…」

 何の脈絡もないところで、サイカーラクラの言がひっかかった。すぐに取り繕うように話しをつづけたので、ボゥシューには逆に奇妙に思えた。

「ジルフーコが言うには…、第一光子体(ピスリーニア)と宇宙皇帝、どちらがタケルヒノの敵なのか、まだよくわからないのだそうです」

「ジルフーコが言ったのか?」

「ジルフーコがです」

「そうか…」

ボゥシューは、さしたる理由もなく、本当に突然、サイカーラクラに意地悪してみたくなった。普段のボゥシューなら、思いつきもしなかったが、だからこそ、やりたくなった。

「ジルフーコは、どうして、そんな話しをしたんだ?」

 ロッキングチェアがありえない方向に傾いた。座っているサイカーラクラが変な動きをしたからだ。

「惑星改造のことを聞いたのです。ジルフーコはやるべきだと言いました」

「なぜ、やるべきだと?」

情報体(リーンファニア)に、できないことだから」

「ああ、そういうことか」

「わかるのですか?」

「そっちの話しはな。よくわからないほうは…」

「あー、疲れた、疲れた」

 イリナイワノフが、わめきながら部屋に入ってきた。

「もー、なんで、あんな口が硬いんだろ。さっさと白状すればいいのに」

「何の話しだ?」

 自分の話しの腰を折られたボゥシューが、しかたないなあ、という顔でイリナイワノフに問う。

「ビルワンジルの初恋の人だよ」

 まだ、やってたのか。呆れながらも、ボゥシューも、そこそこ興味はあるので、つい訪ねてしまう。

「どんな()なんだ?」

「すっごい美人なんだって、ビルワンジル面食いらしい」

「へえ」

「あと、元気がいい子なんだって、それで優しくて友だち思いらしい」

「はあ」

 いつの間にかロッキングチェアが止まっている。サイカーラクラは身を乗り出してイリナイワノフの話しに聞き入っている。

「なんかスポーツやってるらしくてさ、毎日トレーニングかかさないところとか、そういうとこが好きなんだって」

「え?」

「それって?」

「スポーツやってるんだ、ケニアの人、足速いもんね、って言ったら白人だって言うんだよ」

「…」

「…」

 たまりかねたサイカーラクラが、遠慮がちに尋ねた。

「あの、何か、他に体の特徴とか聞けました? 髪の色とか?」

「ブロンドだって」

 イリナイワノフは自身の金髪をかきあげ、ゆるんだリボンを結び直した。

 あーっ、とイリナイワノフが突然、素っ頓狂な叫び声を上げた。

「忘れてた。今日の走り込みが終わってない。ちょっと行ってくる」

 そのまま、あわただしく、部屋を出るイリナイワノフ。

 イリナイワノフの足音が遠ざかって、絶対に、帰ってこないと確信したサイカーラクラが、それでも、ヒソヒソ声で、ボゥシューに言った。

「アレはいったい何なんですか?」

「何、と言われてもなあ」

 ボゥシューとしても、そう返すのがやっとだ。

「わざとやってるんでしょうか?」

「いや、単に鈍いだけだと思うが」

「それにしたって、ほどがあります」

 サイカーラクラは立ち上がって、ボゥシューに、にじり寄った。

「私たち、何かしなくてはいけませんよね?」

「いやあ、それは、どうかな?」

 ボゥシューは息苦しくて、そっぽを向いた。

「私、イリナイワノフには幸せになって欲しいのです」

「ワタシは? ワタシは、幸せにならなくていいのか?」

「ボゥシューは勝手に幸せになってください。止めはしません」

「ひどい言い草だな」

「ボゥシューの幸せは、タケルヒノ次第なので、私がどうこう言うことではありません」

「…」

「…」

 そうだ、と2人は同時に声を上げた。

「ダーに相談しよう」

「ダーに聞きに行きましょう」

 2人は、自分たちの声に驚くのも、もどかしく、急いで部屋を出た。

 


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