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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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3つの月(2)

 

 ジムドナルドは3つめの月の周辺にぷかぷか浮いている。

 最初はさんざんだったジムドナルドの宇宙遊泳も、いまではすっかり板について、いっぱしの宇宙飛行士だ。

 ジムドナルドは何かの仕事をしにハリューダン第2惑星の第3衛星に来たわけではない。仕事の方はジルフーコがやっている。

 ジルフーコは、資材が、エネルギーが、とか、ひとしきり文句をいうわりには、仕事がはじまると、むしろタケルヒノより率先して、バリバリやってしまうわけである。

 ようするに根っから好きなのだ。

 タケルヒノは、当然、第2衛星のほうに行っている。作業は同時にやる必要はないのだが、並行して進めたほうが早いのは確かだ。

 心配だから、という理由で、ボゥシューとサイカーラクラがタケルヒノのほうに行っている。リーボゥディルもボゥシューにくっついていった。心配なのは、わからないでもないが、心配してみたところで、どうなるわけでもなかろうに、とジムドナルドは思う。

 というわけで、ジムドナルドは、面倒のなさそうなジルフーコのほうに来た。ジルフーコはそこそこ賢いので、ジムドナルドに手伝えなどと無謀なことは言わないから、ジムドナルドはヒマである。

「やあやあ、ずいぶん面白いことやってるねぇ」

 レウインデがとなりに現れた。

「おう、面白いぞ、こうやって、ぷかぷか浮いてると、いろんなことに集中できる。左目と右目をひっくり返したら、この世の中がどんな風に見えるか考えてたところだ」

「右耳と左耳が逆についた男の顔が見えるんだ」

 レウインデは、そっけなく言うと、ジムドナルドの回りをくるりと回った。

「そういう話しじゃなくてさ。いま月にいろいろ細工しているじゃない? あっちのほう」

「あれはタケルヒノが面白いんであって、べつに俺は面白く無いぞ。聞くんならタケルヒノに聞けよ」

「あっちは、恐いお姉さんが2人もいるし、話しかけられるような感じじゃないよ」

「いちおう、行ったのか?」

「行った、行った。もう、サイカーラクラに見つかりそうになったから、慌てて逃げてきた」

「まあ、賢明だな。それで、こっち来たんなら、ジルフーコに聞けよ」

「だって、彼、忙しそうじゃないか」

 レウインデは真顔で言った。

「君、ヒマだろう?」

 どうだ、と言わんばかりのレウインデ。無視しようかとも思ったが、それはそれで面白くない。

「月を落とす」

 ジムドナルドはそれだけ言った。

「やっぱりそうかあ」

 レウインデは有頂天だ。そのへんの空間を無茶苦茶に飛び回る。

「そうじゃないかと、思ってたんだ。再創世(オレファルスト)、ハリューダン第2惑星はきっちり条件がそろってるのに手が出せなかった。やるんだねぇ。楽しみだねぇ」

「何でできなかった?」

 ジムドナルドの問いに、レウインデは悲しそうな顔をした。

光子体(リーニア)じゃ無理なんだよ」

 レウインデはそう言って、空間に光の雨を振りまいた。

「ハリューダンには誰もいないから、光子体(リーニア)だけじゃ、何もできない。最初の光子体(ピスリーニア)が、偶然ハリューダンに出た時の宇宙船の装備ではどうにもならなかったし、再設計した宇宙船で、何度か再訪を試みたけど、とうとう2度目はたどり着けなかった」

「自分でやってみようとは思わなかったのか?」

「失礼な、2回もやったんだぞ」

 レウインデは腰に手をあて、さも憤慨だ、という顔をしている。

「そいつは、悪かった。それにしても惜しかったな、3回やってたら、たぶん超えられたぞ」

「いやぁ、ハリューダンに来られてもね。よく考えたら、そのあとも結構面倒くさいわけだし、月を2つも落とすとかね。私だとそのへん、ちょっと無理かなあ」

 意外と正直な奴だな、とジムドナルドは思った。

「だからね、今回は、見学だから、何もしなくて、ただ見てるだけでいいから、ほんと、楽だし、楽しみだなぁ。あ、それとね」

 レウインデは、ほんのちょっと困った顔でつけたした。

「君たちの宇宙船(ボード)さ、うまく入れないんだけど、どうして?」

「知らんなあ」

 ジムドナルドは、すっとぼけた。

「ゴーガイヤはちゃんと通ってたぞ。モノマネが似てないんじゃないか?」

 いや、そんなことはないと思うんだけど、そう言いながらレウインデはしきりとゴーガイヤの真似をする。

「似てないかな」

「いや、俺は似てると思うけどな」

 ジムドナルドが言った。

「俺が決めてるわけじゃないからな」

「え? 君が決めてるんじゃないの?」

「そんなわけないだろ」

 がっかりしたらしいレウインデは、そのまま、ふっと消えてしまった。

 よくわからないやつだなあ、とジムドナルドは思った。

 

 宇宙船(ボード)に戻ったジムドナルドに、タケルヒノが声をかけてきた。

「レウインデが来てたみたいだけど、そっちのほうでは見かけなかった?」

 何が、見つかる前に逃げてきた、だ。しっかりバレてるじゃないか。

「ああ、来てたよ」

 ジムドナルドは苦笑いしながら言った。

「月、落っことすの楽しみだとさ、何か凄く興奮してたぞ」

「へぇ、それで来てたのか」

 タケルヒノは言った。

「確かに彼は、そういうの好きそうだね」

 話しの最中、横を通り過ぎるジルフーコに、ジムドナルドが声をかける。

「ジルフーコ、ゲートの仕組み、調子いいらしいな。レウインデが入れないって、泣いてた」

「へぇ、そう」

 ジルフーコはあまり感心なさそうだ。

「少しゆるめとくほうがいいかい?」

「いや、ダメだ」

 ジムドナルドは首を振った。

「むしろキツくする方だ。アイツは絶対、入れちゃだめだ」

 

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