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「ジルフーコは地球に降りますか?」
めずらしくサイカーラクラから声をかけてきた。
「ボクは降りないけど、サイカーラクラは?」
「私も行きません」
ちょっと沈黙、自分から話しかけた手前、それだけでは少し気まずかったのか、サイカーラクラはもう一言続けた「タケルヒノにも迷惑でしょうし」
「迷惑ってことはないと思うよ」ジルフーコはメガネの仮想スクリーンに着陸ポッドのデザインを大写しにしている「むしろ、サイカーラクラが行って、他の人が行くのあきらめれば、タケルヒノとしては大助かりじゃないのかなぁ。サイカーラクラなら面倒起こさないだろうし」
「他の人たちはあきらめたりしないと思います」
「うーん、まあ、そうかな」
「ジルフーコは、もう地球に思い残すことはありませんか?」
「そこまで、ばっさり、何もないってこともないけど…」ジルフーコはサイカーラクラを見て、ちょっぴり微笑んだ「実際問題として、下界でトラブルがあってタケルヒノが助けにいったら、この宇宙船動かせるのボクだけだからなあ、最初から降下できるメンバーには入ってないんだよ」
「それは、すこしだけ、気づいてました」サイカーラクラは言った「私も体をきたえなければいけませんね」
「え?」
「冗談です。気にしないでください」
冗談には聞こえないけど、ジルフーコは思った。それにしても、あの連中、あれだけ舞い上がっていったいどういうつもりなんだか。タケルヒノも苦労するよな。
「だからさ、タケルヒノは考えすぎなんだよ」
「オマエは考えなさすぎだ」
「いっしょに説得に行こうぜ。三人も四人も同じだから、迷惑なんかぜったいかけない、ってタケルヒノに言いに行こう」
「いやだ、オマエといっしょだと、同類に思われる。だいたいオマエがおとなしく宇宙船に残れば、全部解決じゃないか、そうだ、それがいい、オマエ残れ」
「俺、地球でやらなきゃいけないことあるんだよ」
「やらなきゃいけないこと、って何だ?」
「知り合いに自慢するんだー。俺、宇宙船乗ったんだぜ、って」
「死ね、オマエ、いっぺん死ね。ああ、この間の宇宙遊泳のとき、タケルヒノは、なんでこんなヤツ助けたんだ」
「やっぱり迷惑かなあ」
第2区画で、イリナイワノフはビルワンジルに話しかけた。
「いやー、別にいいんじゃないか」ビルワンジルはいつものように草に寝ころんでいる「ジムドナルドが残ればいいと思うよ、オレは。それがいちばん面倒がない。それに…」
ビルワンジルは体を起こした。
「大事な用なんだろ? イリナイワノフは」
「大事っていうか、会いたい人がいる。修行し直しに…、あ、その前にサイカーラクラに話聞かないと…」
「サイカーラクラ?」
「あ、それはこっちの話で…」あせったイリナイワノフは、ごまかそうとして逆に聞き返した「ビルワンジルはどんな用?」
「ネコの餌が…」
「ネコ?」
「でっかいネコみたいなもんなんだ。タケルヒノに生肉はダメだって釘刺されてるから、なんとかしないと…」
「あの…、言ってること、よくわからない」
とまどうイリナイワノフにはおかまいなしで、ビルワンジルは夢中で話し続ける。
「あ、すまん、イリナイワノフだと専門外か。誰に聞けばいいんだろう。ボゥシューが分子生物学だから、ボゥシューに聞くか…」
――ネコの餌
イリナイワノフは絶句したまま、ビルワンジルを見つめている。やっぱり、この人もオカシイ。




