表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/251

渇きの星(5)

 

「タケルヒノは、何故、海を造りたいのですか?」

 突然、サイカーラクラが尋ねてきたので、ジルフーコはメガネの奥で目をぱちぱち瞬かせた。

「さあ、どうしてかなあ?」

「ジルフーコにも、わかりませんか」

 サイカーラクラが、がっかりしている。珍しいな、と思ったジルフーコは、つい口に出してしまった。

「まったく見当がつかない、ってほどじゃないけど」

「何か知っていますね?」サイカーラクラは顔を上げた「教えてください」

「あまり確証はないんだけどね。ボクがそう思っているだけで」

「かまいません。教えてください」

 サイカーラクラが身を乗り出す。

「海じゃなくて、湖なんだろうな、と思う」

 ジルフーコは答えた。

「湖? ですか?」

「そう、湖」

  怪訝そうな顔のサイカーラクラに、湖だよ、とジルフーコは繰り返した。

「湖にずいぶん思い入れがあるらしいんだよね。タケルヒノ」

「もったいぶらずに教えてください」

 ああ、ごめん、ごめん、とジルフーコは笑った。

「とあるバカンス、って言うか小学生のころ、夏休みにホームステイした先での話しらしいんだが…」

「はぁ」

「タケルヒノ、そこで知り合った女の子と、毎日、湖で遊んでたらしい」

「はぁ?」

「楽しかったって、さ。ボクも一回聞いただけなんだけどね」

「よくわかりませんが」

「そうかな」

「はい、全然わかりません」

 サイカーラクラは、一生懸命考えているようだが、納得はできないようだ。

「この惑星(ほし)に湖を造っても、その女の子は現れませんよ」

「そりゃ、そうだね。地球での話しだからね」

「女の子と、もう一度、遊びたいのではないのですか?」

「まあ、会いたいことは、会いたいんじゃないかな」

「湖を造ったら、会えるのですか?」

「それは、ないよ」

 ますます困惑した表情のサイカーラクラは三度同じ言葉を繰り返した。

「私にはわかりません」

「ボクだって、わかんないよ」

 ジルフーコは笑った。

「タケルヒノのことを理解できるヤツなんていないんだ。いま言ったこともボクの思いつきさ」

「タケルヒノに聞いたらわかりますか?」

 何かが抜け落ちた、真っ直ぐな目で、サイカーラクラは問うた。

「無理だろうね」

 ジルフーコは答えた。

「タケルヒノのことをタケルヒノに聞いても無駄だよ。それは唯一、彼に答えられない質問だから」

 

「それって、初恋の人、ってことだよね」

 イリナイワノフは、サイカーラクラに聞いた、湖の少女を、こう評した。もっとも、イリナイワノフだって、初恋というものがある、ということを知っているぐらいで、それが何なのかなんてことは、わからないわけだが。

「初恋ですか」

 サイカーラクラは、何故か、ショックを受けている。

「じゃ、ないのかなぁ」

 イリナイワノフ的には、何かわくわくする話だし、もっといろいろ聞きたいのだが、サイカーラクラに聞いてもダメそうなのは、なんとなくわかる。

「初恋、とか言うのは、この宇宙船(ボード)に乗っている人とは無縁のものだと考えていました」

 ずいぶん失礼な話じゃないか? とはイリナイワノフですら思うのだが、かと言って、自分の経験からは直接反論できない。困った。

「初恋もできるって、やっぱり、タケルヒノは凄いんですね」

「いや、さすがにそれは、褒めるとこが違うんじゃないの?」

 あぁ~、ここで、自分の初恋とか言えれば、とイリナイワノフは焦ったが、記憶のすみにも、そういう、ほんわかしたものは浮かんでこない。

「ボゥシュー」

 イリナイワノフは叫んだ。

「ボゥシューは、どう思う?」

「え?」

 いきなりの名指しに、ボゥシューはベッドから起き上がった。

「どうかしたか?」

「べつに、どうもしないけど」

 イリナイワノフは、もう自分で何を言っているのかわからない。

「ボゥシューの、初恋の人、ってどんな人」

「初恋?」

 言ってしまってから、イリナイワノフは、しまった、と思った。いくらなんでもボゥシューに振る話じゃない。

「ずいぶん昔の話だからなあ」

 その答えに、こんどはイリナイワノフが驚愕した。

「ちょっと、待ってよ。ボゥシュー。初恋だよ。なんか聞き間違えてない?」

 イリナイワノフだって、サイカーラクラ以上に、失礼である。

 ああ、とボゥシューは、寝ぼけているのか、ぼんやりしている。

「あんまり、昔だから、忘れてしまったな」

 ボゥシューは、わずかに口元をゆるめ、笑ったように見えた。そして、再びベッドに寝転んでしまった。

 イリナイワノフとサイカーラクラは、ボゥシューを起こさぬよう、ひそひそ声で話したが、当のボゥシューが寝てしまっているので、結論など出ようはずもなかった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ