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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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渇きの星(2)

 

 サイカーラクラとイリナイワノフ、光弾を打ち合う2人は、次第に興が乗ってくるのか、弾の返し方もアクロバティックになってくる。もう光弾の速度は、視認できる限界を超えているようで、ちょっと見、2人は奇妙なダンスを踊っているだけのように見える。

 たまに声をかけて、ゴーガイヤに弾が飛ぶのだが、かわすのがやっとの有り様で、そこでラリーが途切れてしまう。じきに2人とも、ゴーガイヤに回すのをやめてしまった。

 ゴーガイヤは、2人のどちらかが打ち損じた時に、最初の光弾をトスする係になってしまった。

 

「あれは、俺たちには無理だなあ」

「同意」

 笑いながら話しかけてくるジムドナルドに、ビルワンジルが応じた。

「で? オレたちは、どうする?」

 ジムドナルドは、一度、伸びをして、持参のサーブルを右手に、構えをとった。

「普通にやろ、普通に、普通がいちばんだ」

 構えから、前進(マルシェ)後退(ロンペ)前進(マルシェ)突進(フレッシュ)と、一連の動作を流れるようにこなす。

「なんだ、ずいぶんサマになってるじゃないか」

 ボゥシューの独り言に、タケルヒノが応じた。

「彼、フェンシング全米大学選手権の裏チャンピオンだから」

 タケルヒノの言葉に、ジムドナルドは動作を止め、ヘルメットを向けた。たぶん、バイザーの中の顔は笑っている。

「何で、裏、なんだ?」

 ボゥシューの率直な問いに、タケルヒノは答えた。

「大学選手権、って学生が出るもんでしょ。ジムドナルドは教授、職員だから参加資格がないんだ。年齢的には学生でいいようなものだと思うけど」

「オリンピックは?」

「そういう面倒くさいのは、イヤなんだそうだ」

 ジムドナルドの隣で、こんどはビルワンジルが槍を片手にウォームアップをはじめた。前後、左右に突きつつ、素早く持ち手を換える。どちらの手でついてくるのか、目を凝らしてもよくわからない。

「フェンシングと投げやりじゃあ、勝負は一瞬だな」

「いや、投げやりじゃないよ。それは競技か、間合いが遠いときだけで、そもそも、ビルワンジルは、モラン槍術の達人だから」

「モラン槍術?」

 眉根をあげて聞くボゥシューに、タケルヒノは説明した。

「ケニア、マサイ族伝承の槍術だ。ライオンと一対一で戦ったりするらしい」

「ライオン? ザワディとか?」

「ビルワンジルはザワディと戦ったりしないよ」

「そりゃあ、まあ、そうだが」

 ボゥシューは笑った。

「何でうちの乗組員(クルー)はこんなに隠し事が多いんだ」

「隠してたわけじゃない」

 ジムドナルドが振り向いて言った。

「こんな瑣末なことまで、いちいち説明してたら、履歴書(エントリーシート)が辞書みたいに分厚くなっちまうだろ」

 ジムドナルドが言い終わってもとのほうを向くと、ビルワンジルが無造作に槍をつかんで立っている。

「そろそろ、行きますか」

「お手柔らかに」


 対峙した2人、いきなり、ジムドナルドが間合いを詰めた。

 と、と、と、と3歩で、10メートルも近づいたのではないかと見まごうほどに接近する。

「ねぇ、いま、何やったの?」

 光弾打ちをやめたらしい、イリナイワノフがタケルヒノに尋ねた。

「前に進んだんだよ」

「嘘だよ、ジムドナルド、あんな脚長くないもん」

「そんなこと言ったって」

 サーブルの切っ先を、首だけひねってかわしたビルワンジルが、ジムドナルドに聞いた。

「攻撃権とかいうのは、アリなのか?」

 ジムドナルドはニヤッと笑った。

「モラン槍術にそんなもんあるのか?」

シンバ(ライオン)は戦いたいときに戦うし、寝たいときに寝る」

「じゃあ、それで行こう」

 ビルワンジルは槍の穂先をくるりと回すと、石突でみぞおちを突いてきた。ジムドナルドはサーブルの鍔で叩いて槍の柄をそらす。

 ジムドナルドが、いったん後退するとみせて、そのまま飛びかかって斬りつける。

「ああいうのは、アリなんですか?」

 サイカーラクラが、興奮して聞いてきた。

「フェンシングは突きだけだと思ってましたが」

「サーブルは斬るのもアリなんだけど、それを言ったら、そもそもフェンシングは槍相手に戦ったりしないけど」

「じゃあ、あれは何です?」

「お遊び、かな、ビルワンジルは付き合いがいいから」

「どういう意味ですか?」

 不思議そうに尋ねるサイカーラクラに、タケルヒノは2人を指さして言った。

「もう、そろそろじゃないかな、ほら」

 ジムドナルドが次の攻撃体制をとろうと、身を引いた瞬間、それに合わせるように伸びた石突が、利き腕の脇下に押し込まれる。

 神経のツボを押されて、握力のなくなったジムドナルドは、サーブルを取り落とした。

「ちぇ、もう少しは、いけると思ったんだが、さすがに槍相手じゃ無理か」

「そういうなよ」

 ビルワンジルは笑った。落ちたサーブルを拾い、ジムドナルドに渡す。

「なかなかのモンだったぞ」

「お褒めにあずかり光栄だ。まあ、トレーニング不足だな」

 結果を見届けたボゥシューが、タケルヒノに尋ねた。

「槍のほうが強いということ?」

「いや、結果については、本人の言うとおり、トレーニング不足だよ」

「だから、お遊びですか?」

 まだ腑に落ちない感のサイカーラクラに、タケルヒノが重ねて説明した。

「ジムドナルドが万全なら、ビルワンジルと試合ったりしないで、フェンシングを教えるよ。あるいは…」

「俺が槍を習うさ」

 ジムドナルドがタケルヒノの言葉を継いだ。

「他流試合なんかより、訓練としてはそのほうがはるかに効率がいいんだ」

「そうですか」

 サイカーラクラは顔の真ん中に、思案中、とぶら下げた感じで、腕組みをする。サイカーラクラは胸が大きいので、この格好はサマにならない。スタイルがいいのも良し悪しだな、などとボゥシューは余計なことを考えている。

「光弾のトレーニングは個人差があって難しいようです。ビルワンジルに槍を習うのでは、光子体(リーニア)にはあまり役にたたないと思いますし…。うーん、どうしましょう」

 しばらく考えていたサイカーラクラは、突然、声を上げた。

「そうだ、鬼ごっこをしましょう」

「あの…、それだと、光子体(リーニア)がすごく有利ですけど」

 リーボゥディルが遠慮がちに言ったが、サイカーラクラは続けて説明する。

「いえいえ、やり方を工夫すれば大丈夫です」

「やり方…、ですか?」

「まず、リーボゥディル、あなたが私を追いかけます」

「…はい」

「そして、私はゴーガイヤを追いかけます」

 オレ? とゴーガイヤは自分を指す。肯いたサイカーラクラは、ゴーガイヤにも指示を出す。

「ゴーガイヤはイリナイワノフを追いかけます。イリナイワノフはジムドナルドを、ジムドナルドはタケルヒノ…」

「あ、僕は、ちょっと用があるんで…」

 タケルヒノは、すまなそうにサイカーラクラに断りを入れる。

「ワタシもパスだ」

 ボゥシューも棄権した。

「しょうがありませんね。では、ジムドナルドはビルワンジルを、そして…」

 サイカーラクラは、ここで言葉を切って、まじまじとザワディにからみつくヒューリューリーを見た。

「ザワディとヒューヒューさんは2人で一組です」

「アイ・アイ・サー」

 この間の艦長ごっこがよほど気に入ったらしいヒューリューリーは、最近、地球の戦場ドラマばかり見ている。すっかり、はまってしまったらしい。

「ビルワンジルとリーボゥディルの間に入ってください」

「イエッサー」

「さて、よろしいですか、みなさん」

 個々に指示を出し終えたサイカーラクラが、皆に向かって言った。

「これから鬼ごっこです。誰かが自分の相手を捕まえたら、そこで追う人と追われる人が逆転します。いいですか? では、よーい、はじめっ」

 


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