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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え
124/251

渇きの星(1)

 

宇宙船(ボード)は、ハリューダン第2惑星の主衛星軌道を周回している。

 主衛星は他の2つの衛星よりも相対的に大きいが、第2惑星に比べると直径は10分の1、質量は1000分の1以下である。資材の運び出しに衛星側の重力の影響をほとんど考えなくて良いため、採掘にはもってこいだ。リモートセンシングの結果でも、必要とする元素の質、量ともに問題なく、ジルフーコは、この衛星だけで、補給には事足りる、と判断した。

 あとは、ケミコさんの仕事である。

 船外活動型のケミコさんを総動員して、採掘、精錬、運搬にあたらせる。ジルフーコはミーティングルームで、それらケミコさんを監督していた。

「あ、ありがとう」

 ジルフーコは、礼を言うと、ダーの持ってきてくれたレモネードを一口含む。

「なんでしたら、わたしが代わりに見ていますよ、ジルフーコ。あなたも惑星に降りたら?」

 え? と、思わずジルフーコは咳き込んだ。喉と鼻の間にレモネードの酸味を感じながら、ジルフーコは口を手で塞いだ。

「いやあ、やめとくよ。ダー」

 ジルフーコは笑った。

「だって、トレーニングだっていうじゃない? ボク、そういうの大嫌いだから」


 ハリューダン第2惑星。

 抜けるような青い空は雲ひとつない。

 この惑星には雲を作れるほどの水がないのだ。

 地面はおもに風によって平坦化される。

 風は吹く。大気があるから。

 だが、炭酸ガスの比率の高い、この惑星の大気は呼吸には適さず、宇宙服が必要だ。その風を肌で感じることはできない。

 吹く風は大地をならすが、いまだ旺盛な火山活動により隆起する岩盤が多く、なかなか平らな土地はない。

 そのごく狭い平らな部分を見つけ出したサイカーラクラが、ここでトレーニングを始めると宣言した。

「この惑星は、地球の重力の1・1倍です」

 サイカーラクラは言う。

宇宙船(ボード)の擬似重力は地球と同じに働くよう設定されていますから、ここでの運動負荷は、宇宙船(ボード)の1・1倍で、非常にトレーニングに適しています」

 

――ボクら光子体(リーニア)には関係ないんじゃないかな

 リーボゥディルは、スラゥタディルに言われて、ボゥシューのところに来たのだが、よくわからない理由で、このトレーニングに付き合わされてしまった。面白そうだし、いいだろ、とボゥシューは言うのだが、知らない光子体(リーニア)も一緒だし、それに、この光子体(リーニア)とても大きいし、で、いろいろ不安ではある。

 

「まず、私とゴーガイヤで始めますので、あとの皆さんは、真似してみてください」

 サイカーラクラは言った。

「はじめる、って、何するんだ?」

 いきなり言われたゴーガイヤがあわてている。どうも、事前説明はなかったらしい。

「簡単です」

 サイカーラクラは、きっぱり、と言った。

「ゴーガイヤ、まず、光弾を撃ち出してください。それを私が弾き返しますら、あなたも弾き返す、それを繰り返して…」

「待ってくれ」ゴーガイヤはうろたえている「オレ、光弾をはじき返したことなんかないぞ」

「ないんですか?」サイカーラクラは、怪訝な面持ちで尋ねた「どうして?」

「オレに光弾を撃ち込んできたのは、姉さんだけだし、オレはあれは返せなかった」

「光弾じゃなくて曳光弾だよ、あたしが撃ったのは確かだけど、機関砲だし…」

「あまり細かいことを言ってもしょうがないです」

 サイカーラクラは、イリナイワノフの言い分を取り上げる気はないらしい。

「やったことがなくても、見て覚えれば大丈夫です。ゴーガイヤ、私に光弾を撃ってください」

 無茶だ、と、ゴーガイヤも思ったのだが、サイカーラクラがあまりに自信満々なので、試しに緩い光弾をサイカーラクラのほうに投げてみた。

 サイカーラクラは迫り来る光弾に、わずかに腰を落とすと、腰だめに正拳をはなった。

 光弾はサイカーラクラの拳に返され、倍の速度でゴーガイヤの脇をかすめて飛んでいった。

「できるわけないっしょ、そんなの」

 イリナイワノフの叫びが、破鐘のようにヘルメット内で響くが、サイカーラクラはどこ吹く風だ。

「できますよ、その警棒使っていいですから。ゴーガイヤ、もう一回お願いします」

「ええ、え?」

 うろたえているヒマもあらばこそ、サイカーラクラは、体をひねって左手を繰り出すと、掌底にあてて、次弾をイリナイワノフに向けた。

 わ、と、悲鳴を上げた、イリナイワノフ。だが、彼女の体のほうは、心とは関係なしに反応し、手にした特殊警棒が正確にサイカーラクラに向けて光弾をはじく。

 かすかに笑んだサイカーラクラは、顔前で手刀を一閃、イリナイワノフにまた返す。

 イリナイワノフも覚悟を決めたか、逆手に持ち替えた警棒で、サイカーラクラの頭上ギリギリに光弾を打ち込んだ。

 サイカーラクラは後ろに飛んで倒立姿勢を取ると、逆に倒れこんでブーツの踵で光弾を返した。

 何度かの応酬の後、リズムの出てきたイリナイワノフが、光弾を弾き返しながら、言った。

「なんか、慣れてくると、意外と、楽しいかも」

「でしょう?」

 サイカーラクラも我が意を得たりと声を上げた。

「コツさえつかめば、簡単なんです」

 

 互いに光弾を返し合う2人、その2人を唖然と眺めるばかりだったリーボゥディルが、傍らのボゥシューに話しかけた。

「あの、ボゥシュー…」

「ん?」

 呼ばれたボゥシューは、リーボゥディルに振り向いた。

「ボクも、アレ、やらなくちゃいけないんですか?」

 リーボゥディルの質問に、ボゥシューは声を上げて笑った。

「アレは、サイカーラクラが励起子体(パウフラニア)だからできるんだ。普通の光子体(リーニア)であんなことはできない。あと、イリナイワノフ。普通の人間は、あんな警棒(丶丶丶丶丶)使っても、体のほうが追いつかないから無理だ」

 ほっとした表情のリーボゥディル。だが、何かに気づいたらしく、まじまじとボゥシューの顔を見つめる。

 視線に気づいたボゥシューが、あわてて付け加えた。

「ワタシはできないからな。そんな目で見るな。絶対、やらないから」

 


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