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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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超えられぬ壁(5)

 

「ダー、また、止まっちゃったね」

 イリナイワノフは、ダー、ケミコさんのボディの前でしゃがみこんで心配そうにのぞき込む。

「だから、俺のせいじゃないって、言ったろ?」

「それはもう、わかった、って言ったじゃない」

 軽くいなしたつもりのジムドナルドに、イリナイワノフが突っかかる。どうも胞障壁(セルレス)は気が立っていけない。

 その時、ジムドナルドの意識は、イリナイワノフに向いてはいなかった。

 管制室(メインボード)のすみにうずくまる、闇。

 不定形に蠢くそれ(丶丶)に、ジムドナルドはその一点に集中していた。

「おい」

 ジムドナルドは、闇に向かって声をかけた。

「何か用か?」

 闇は、一瞬、小刻みに鳴動したが、突如、膨潤すると、室内いっぱいに声を響かせた。

「バカ者どもめ、このワタクシを管制室に入れるようなヘマをしおって、もうこの宇宙船はワタクシのものだ」

「へぇ、そう」

 槍を手に、構えようとしたビルワンジルを押しとどめ、ジルフーコが、言った。

「じゃあ、やってみれば?」

「つくづくもってバカ者め、あらゆる電子機器を自由に操作できる光子体(リーニア)の力を知らないな」

「知ってるよ」ジルフーコは鼻梁に手をやりメガネを直した「だから、やれば?」

 闇―タルトレーフェンは、上下左右に伸縮しつつ、闇の胞子を周囲にまき散らした。

「何も起こらんようだな」

 間延びした口調で、ジムドナルドがけしかける。

「バカな、何故? えいっ、エイッ。…、何故だぁ」

タルトレーフェンからは、黒の胞子が吹き出されるが、それは、力なく四散していく。

宇宙船(ボード)の電子装置は、胞障壁(セルレス)対策を施した特別仕様だよ。並みの光子体(リーニア)が干渉できるような代物じゃない」

「なんだと?」

 淡々と説明するジルフーコにかみつくタルトレーフェンだったが、こんどはジムドナルドから揶揄が飛ぶ。

「お前なあ。他人(ひと)の宇宙船のことより、もっと心配することあるだろ?」

「なンだと?」

 同様に言い返したつもりのタルトレーフェンだが、何かがおかしい。

「お前、いま、自分がどんな状態なのか、わかってんのか?」

 ジムドナルドは、状況ではなくて、状態と言った。

 たぶん、タルトレーフェン、のようなものは、その時はじめて気がついた。

 焦って人間体をとろうとするものの、紡錘形を形作るのさえやっとのようで、気づくとあやふやな不定形の闇となる。光を発することさえできない。

胞障壁(セルレス)ではプラズマシールドの効果がなくなる」ジルフーコが言った「数学障壁の中では、物理障壁が無意味と言ったほうがいいかな。とにかく、胞障壁(セルレス)の入り口、プラズマシールドの切れる瞬間が最後のチャンスだった。そこで余計なことを考えずに逃げ出してればね。残念だったね」

「何故だ?」

 闇が咆哮を上げた。

「何故、ワタクシがこんな姿に?」

光子体(リーニア)は周りの環境にとても影響を受けやすいのです」

 抑揚のない口調でサイカーラクラが、申し渡した。

「ここは胞障壁(セルレス)。無限の情報が覆いかぶさる壁。この中で己を保ち得ることができた光子体(リーニア)は、第一光子体(ピスリーニア)のみです」

「何が、第一光子体(ピスリーニア)だ」

 タルトレーフェンは、いきなり人型を形成した。だが光はない、闇のまま。

「あの老いぼれが、ピス・リーニアであるわけがない。ワタクシが、ワタクシこそが、最高の(ピス)光子体(リーニア)なのだ」

 ザワディが、タルトレーフェンの真横を無造作に横切る。

 ザワディの移動線にかぶる、タルトレーフェンの稜線が崩壊した。

「こ、この、ケモノ、四足風情が、この、ワタクシの…」

「でも、あなた、ザワディ以下ですよね」

 そう言ったのはヒューリューリーだ。操作盤も叩かず、身をよじることもない。胞障壁(セルレス)では、意思そのものが通る。

「ザワディは、胞障壁(セルレス)でも、ちゃんとしています。あなたは、そうじゃない」

「下等ッ、下等な先駆体(リーンファニディア)が、偉そうな口をきくなぁ」

 いったん、まとまりかけた闇が、茫漠の濃淡へと散っていく。

「ワタクシ、ワタクシこそガ、至高ノ、ソンザイ、宇宙コウテイも、レウイんデも、ぴす・リーニあ、も…、クソクラエ、せるれス、いヤ、せルれ…」

 黒い綿帽子のような欠片が、力なく震え、散った。

「リーボゥディルを帰しといて良かったよ」

 ボゥシューが、ぽそり、と言った。

 ん? と振り向いたジムドナルドが言う。

「リーボゥディルは、あんなザマにはならんだろ。不完全とはいえ、最初の光子体(ピスリーニア)の血筋だ」

「あんな、無様なもの、子供には見せられん」

 ああ、とジムドナルドは肯いた。

「確かに、あれは、ちょっと酷いな」

 

「何かありました? 皆さん、お疲れのようですけど」

 胞障壁(セルレス)を超え、再起動したダーが、開口一番に問うた。

「いや、たいしたことは無かったと思いますよ」

 タケルヒノが答えたが、なにかちょっと、気まずそうだ。

「実は、胞障壁(セルレス)を超えるのに夢中で、他のことにはあまり気が回らなかったので」

 タケルヒノは、念のため、皆に向かって尋ねた。

胞障壁(セルレス)を超えている間、何かあったかい?」

「いや、何もなかったぞ」

 ジムドナルドが答えて、皆も肯いた

 

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