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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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超えられぬ壁(2)

 

「どうした?」

 リーボゥディルが心ここにあらずという感じで、ぼーっ、としている。

 ボゥシューは、普段こういう場合、声をかけたりはしないのだが、相手がリーボゥディルなので、まあ、しかたないか、と思ったわけなのだ。

「ママが元気ないんです」

――まあ、そうだろうな

 ボゥシューは、やる気まんまんのダーを思い出した。よっぽどやられたんだろう。

「ママはダーに叱られたんだ」ボゥシューは言った「ま、すぐ元気になるんじゃないかな」

「何故?」

「ダーは、オマエのパパとママの古い知り合いらしいんだ。オマエが生まれる前だよ」

「叱られたのはママだけ?」

「いや、パパもだろ?」

「パパは普通でした」

 リーボゥディルは、腑に落ちない顔をしている。ボゥシューにも、いろいろ思うところはあるが、面倒なので簡単に片付けることにした。

「オマエのパパは叱られ慣れてるんだよ。ちょっと叱られたくらいじゃ、へこまないんだろ」

 あ、そうか、とリーボゥディルは納得した。

「ぼくもそうなんです。ぼくはパパに似たんです」

 遺伝学的にも、光子体転換理論からしても、リーボゥディルの言い分はまったくの間違いなのだが、それを無視して、ボゥシューは応じた。

「そうだな、オマエはとてもよく似ているよ。パパにもママにも」

「ママにもですか? どこが?」

 勢い込んで尋ねるリーボゥディルに、まさか、考えなしでむちゃくちゃやるところ、とも言えないボゥシューは、苦し紛れに言った。

「…目だな、そうやってムキになったところの目が、そっくりだよ」

「目ですか」

 リーボゥディルは不満気だったが、実際、その目はスラゥタディルというより、アグリアータのそれにそっくりだった。スラゥタディルは、普段、猫をかぶっているのだろう。

 不思議なもんだな、ボゥシューは思った。

 

「ねぇねぇ、リーボゥディルのお母さん」

 イリナイワノフが呼んでいる。

 最初、スラゥタディルは、なんのことやらわからなかったのだが、イリナイワノフが駆け寄ってきて、やっと自分を呼んでいるのだと気づいた。

「お母さん、だいじょうぶ?」

「あ、ええ、だいじょうです、けど…」

 スラゥタディルには、彼女のことを、お母さん、と呼んでくる、イリナイワノフの了見がいまいち飲み込めなかった。

「ダーに怒られたでしょ?」

「え、ええ、まあ…」

「だいじょうぶ? ダーって、普段は優しいけど、ときどき、すっごく恐くなるから、心配になっちゃって…」

「あ、でも、ダーの言ってることは正しいので…」

「それは、そうかもしれないけど…、正しいことばかりじゃ、いろいろ…、あー、何て言ったらいいかわかんない」

「落ち着いて、イリナイワノフ」

 何故か、スラゥタディルのほうが、なだめる役になってしまった。

「あたし、頭悪いからさぁ」

 聞かれてもいないことをイリナイワノフは話し出す。

「他のみんなみたいにうまくできないんだよ。リーボゥディルが元気なかったからさ、それで…」

「あの子が? 元気ないんですか?」

 スラゥタディルは驚いて尋ねた。

「うん、それで、聞いたら、お母さんが元気ない、って言うから、それで…、あ、別に慰めるとか、そういうのじゃなくて、あ、それと、別にリーボゥディルになんとかしてって言われたわけじゃなくて、だからリーボゥディルは関係なくて、でも、元気になって欲しいから…、あー、やっぱり、よくわかんない」

「…ごめんなさい」

 スラゥタディルが謝ると、ますます焦ったイリナイワノフは、早口でまくし立てる。

「あー、だから、そうじゃなくて、お母さん元気ないと、リーボゥディルも元気ないから、ダーのことは、あとで、そ、あとで考えればいいから、で、ほんとはパフェとか食べよ、って誘おうと思ったんだけど、よく考えたら光子体(リーニア)の人とか、食べないし、で、困ったけど、とりあえず、声かけてみたんだけど、あー、自分でも何言ってるのかわからないー」

「ありがとう」

 え? と、一瞬、話すのをやめたイリナイワノフに、スラゥタディルは微笑んだ。

「元気でました」

 スラゥタディルはにこやかに両手を上げると、不思議なポーズをとった。彼女の生まれ故郷の元気ポーズらしい。

「イリナイワノフ、あなたのおかげです。本当にありがとう」

 

 サイカーラクラはフラインディルのそばによると、じっと見つめた。

「似ていますね」

 え? と、フラインディルは多少引き気味に尋ねた。

「何がでしょう?」

「リーボゥディルが自慢していたのです」

 サイカーラクラは答えた。

「ぼくとパパは似ている、と自慢していました。確かによく似ています」

「そ、そうですか。ありがとう」

 サイカーラクラは、つ、と一歩前進した。

 フラインディルは、あわててその分下がった。

「私はダーに似ていますか?」

「え?」

 サイカーラクラの突然の質問に、意味を図りかねたフラインディルは絶句してしまった。

「私とダーは親子なのです」

 サイカーラクラは再び問うた。

「親子なので、似ているのではないかと思うのですが、どうでしょう?」

「じゃあ、あなた、もしかして、サイカーラクラ?」

 フラインディルはおっかなびっくり訪ねてみた。

「はい、そうです」

 真っ直ぐなサイカーラクラの返答に、フラインディルは、ますます、うろたえた。

「いや、その、ずいぶん変わったので、わからなかった」

「あなたは昔の私をご存知なのですね?」

 サイカーラクラは意外そうな顔つきでフラインディルを見つめる。

「え、ええ、まあ、最初の光子体(ピスリーニア)と最近まで一緒だったので、そのころはラクトゥーナルという名でした」

「それは、失礼しました。私は昔の記憶が曖昧なのです。あなたのことは記憶にありません」

「それは、まあ、あの状況では、しようがないですね」

「それで、質問なのですが」

 サイカーラクラは三度問うた。

「私はダーに似ているでしょうか?」

「ええ、とても」

 フラインディルは言ってしまって、非常に驚いた。いったい、この子と第2類量子コンピュータの、どこに共通点を見出したのだろう。

 でも、似ているのだけは間違いなかった。

 サイカーラクラは、じっと、フラインディルの顔を見つめていたが、やがて安堵の吐息を漏らし、そして言った。

「不躾な質問で失礼しました。お答えくださって、ありがとうございます」

 そのまま踵を返すサイカーラクラ、フラインディルは驚いて呼び止めた。

「どこが似ているのかは聞かないの?」

 サイカーラクラは振り返ったが、その顔に不可解さがありありと浮かんでいた。

「でも、あなた、ご自分でもどこが似ているのかわかりませんよね。答えられないことは聞かなくても良いと考えました。似ている、と、あなたが感じたことだけで、私には十分です」

――ああ、これだ

 フラインディルは、いまやっと了解した。ダーとサイカーラクラ、似ているのはそこなのだ。

 フラインディルの表情を確かめたサイカーラクラは微笑んだ。

 そして、また振り返ると、去っていった。

 


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