4:3(1)
ラウンドテーブルに7人がついた。
「やっぱり、僕が説明しないとダメかな?」
タケルヒノは控えめに言ってはみたが、周りを囲む六人の無言の圧力に、観念してそろそろと話しだした。
「まず、最初に、メインエンジンを止めたのは、ジルフーコだ」
ハイ、と手を挙げるジルフーコ。一瞬、皆、ジルフーコのほうを見たが、すぐにタケルヒノに視線を戻した。
「ただ止めただけじゃ、漂流してるのも同じだから」タケルヒノが続ける「地球と火星の軌道に接点を持つ長円軌道に乗せた。これが二日前」
タケルヒノは、コホン、と咳をして、最後につけ加える。
「それで、今日、ボゥシューにバレた。おしまい」
「何故、エンジンを止めた?」
ボゥシューの問いにはジルフーコが答える。
「何でっていうか、試しに止めてみたら、止まっちゃったっていうのが真相に近いな」
「いいかげんだな、何故、黙ってた?」
「黙ってたわけじゃないよ。とりあえず、タケルヒノに相談した」
「何故、黙ってた?」
ボゥシューは、ジルフーコからタケルヒノに相手を変えた。
「現在の暫定軌道に乗せるのに手間取ってね」たぶん納得しそうにないなあ、という顔でタケルヒノは話し続ける。
「落ち着いたら、相談しようと思ってたんだけどね。ま、いろいろとやることもあるし…」
「何を相談する気だ。行き先はもう決まってるんだろう? どこだか知らないけど」
「まあ、そりゃ、そうなんだけど。もう一回、地球に寄っていくぐらいはできないわけじゃないから…」
――何だって?
タケルヒノとジルフーコを除く五人が、異口同音に立ち上がる。
「帰れるのか?」端的に、いちばん聞きたいことをビルワンジルが言った。
「まあ、帰れなくはないかな」ジルフーコはしぶしぶ答えた「ヌカ喜びさせても何だから、もう少し確実になってから、みんなに相談しようと思ってた」
「何が足りない?」これは、ボウシューの質問。
「具体的には着陸ポッドとかだな」タケルヒノが答えた「この宇宙船では大きすぎて地表に着陸できないからね。いま、ジルフーコと設計してるから、もう少し時間がかかる」
「着陸ポッドなんて大きなもの作れるの?」
「まあ、なんとか。オーダーシステムにも慣れてきたし、そっちは大丈夫そうだけど、他はいろいろ…」
「地球に降りたら、もう宇宙船には戻れないのでしょうか?」
「それはない」サイカーラクラの問いをタケルヒノは即座に否定した「僕としては、これはあくまで僕個人の意見だけど、たとえ一度地球に帰ったとしても、もう一度、宇宙船に戻ってきてほしいと思っている」
「ずいぶん、控えめだね」イリナイワノフは少し気の毒そうにタケルヒノに言った。
「一生のことだから」タケルヒノは答えた「他人がどうこう言うことじゃないしね。本来なら」
「これが最後のチャンスってヤツか」質問とも独り言ともとれる口調でジムドナルドが呟いた。
「それについては、その通り」ジルフーコが言う「さすがに目標近くまで行ったら、おいそれと地球に帰るなんてことは不可能に近いから」
「それは、そこまで行けたらの話だ」ボゥシューがばっさり切った「実際にはそこまでたどり着けない可能性もある」
「まあ、状況としては、こんな感じだけど」タケルヒノの口調が強まり、その勢いで、皆を静かにさせた「地球に寄るのに関しては、どうしても譲れない条件がある。これだけは僕のワガママを通して欲しい」
皆、押し黙って、タケルヒノの言葉を待った。
「三人だけだ」タケルヒノは言った「地球に降りられるのは三人まで、それ以上は無理だとあきらめてくれ」
「何故、三人?」当然の疑問を発したのはボゥシューだ。
「単純な算数だよ。ボゥシュー」あらかじめ想定されていた質問に、タケルヒノはスラスラと答える「地球に降りたらトラブルに巻き込まれる可能性が非常に高い。三人までなら、一人ずつ応援が出せる、3プラス3で、残った一人が宇宙船を制御できる」
「大丈夫だよー、トラブルくらい一人でなんとかできるさ」
「オマエ黙ってろ。オマエが話したら、みんなタケルヒノが正しいって思ってしまうじゃないか」
「とにかく」タケルヒノは有無を言わさぬ口調で繰り返した「三人だ。三人以上は無理、僕以外のみんなで、誰が降りるのか決めてくれ」




