光る人たち(6)
「で? 何のようだ?」
不機嫌を顔からぶら下げて、ジムドナルドが尋ねた。
「何って、別にないけどさ。最近、あんまり遊びに来れなかったから。うれしくて」
「あんたを解禁にした覚えはないぞ」
「大丈夫だってばぁ」
ジムドナルドの冷ややかな対応にも、レウインデはまったく動ずることがない。
「ここに来るときは、ゴーガイヤのモノマネすればいいんだよね。私、そういうの得意だから。オレ、ゴーガイヤ、よろしく。ね、ね、似てるでしょ?」
ゴーガイヤは、ものすごく困っている。まあ、ゴーガイヤでなくたって、こんなことされたら、困るだろう。
「おーい、ジルフーコ」
何故か、ジムドナルドはジルフーコを呼んだ。
「そういうことで、いいのか?」
「なんとなく違うような気もするけど、技術的にはそういうことだね」
音声だけのジルフーコだが、必死で笑いをこらえているらしいのはわかる。
「じゃあ、そういうことだな」ジムドナルドは、ニコリともせずにレウインデに言った「あんた、ここに来るときは、ゴーガイヤのモノマネ必須な」
とうとう、堪えきれなくなったジルフーコが、笑いながらつけたした。
「じゃ、そういうことなんで、似てなかったら入れないから、そのへんよろしく」
レウインデは、ちょっとだけ変な顔をしたが、大筋では自分有利と見て、あまり気にしないことにした。
「ザワディは、元気?」
ニコニコしながらレウインデが聞いた。
「ああ、ザワディなら、そのへんで紐と遊んでたような気がするが…」
「紐って、サイユルの? じゃあ、ザワディ、こっちにいるんだ。わーい」
ザワディ、ザワディ、と連呼しながら、レウインデは、さっき、ラクトゥーナルとアグリアータが出ていった扉から、小宇宙船の別区画にさまよいだした。
「オレ、帰る」
ちょっと元気のなくなったゴーガイヤは、言いながら緑色のゲートに向かって進みだした。
「おう、また来いよ」
ジムドナルドが声をかける。ちょっと止まったゴーガイヤは、ジムドナルド、イリナイワノフ、ビルワンジルのほうに顔を向けると、小さく右手を上げた。
「兄貴、姉さん、それにジムドナルド。ありがとう。こんどは、レウインデに見つからないように来る」
「気にすんな、それは、こっちでなんとかする」
3人がゴーガイヤに右手を上げて答えると、ゴーガイヤは嬉しそうに右手を振って、緑のゲートに吸い込まれるように消えていった。
ジルフーコがゲートを閉じると、ジムドナルドはシールドのスイッチを入れ、念のため扉まで確認しに行った後で、天井に向かって言った。
「今度は絶対にアイツを入れるなよ」
「ああ、大丈夫、大丈夫」
ジルフーコは軽く請け負った。
「テストだったんで、同調周波数のパターンをかなり甘くしといたんだ。レウインデを遮断するのは、それほど難しくない。そうだな、完全に締め出すのもかわいそうだから、100回くらいモノマネしたら中に入れるようにしとこうか?」
「30回でいい」ジムドナルドは答えた「アイツにそんな忍耐力はないから」
「帰ったぞ」
ボゥシューがミーティングルームに入ると、リーボゥディルが、サイカーラクラとダーにはさまれ、コンソールの前で通信していた。
「あ、帰ってきた」
振り向いたリーボゥディルが、ボゥシューに言った。
「いま、ママと話してたんだけど、ボゥシューも話すことありますか?」
「ないよ」ボゥシューは答えた「向こうで、やまほど話してきた。遠慮しないで、話したいだけ話せ」
「ぼくも、もういいです。パパもママも、もうすぐこっちに来るみたいだから」
そして、リーボゥディルはコンソールに向き直り、スラゥタディルに向かって言った。
「じゃあ、もう切るから、あとは、こっちに来てから」
「あ、待ちなさい、ちょっと、リーボゥディル、こら…」
スラゥタディルの制止も聞かず、リーボゥディルは回線を切った。
「べつにいいんだぞ、話してても」
ボゥシューは言ったが、リーボゥディルより先にサイカーラクラが話しだした。
「実は、リーボゥディルは、ずっと叱られていたので、嫌になったのではないかと思うのです」
バツの悪そうな顔で、リーボゥディルは口をへの字に結んでいる。
「何で、リーボゥディルが叱られるんだ?」
ボゥシューが真顔で尋ねた。
「プラズマシールドに突っ込んで、機能停止状態になったからです。スラゥタディルは、ずっとそれで怒っていました」
「それは、リーボゥディルの親が捕まったりとか、間抜けなことするからじゃないか」
「親というのは、自分のことを棚に上げて、子供を怒るものだから…」
ダーは、よくわからない一般論でフォローしようとしたが、それに対してサイカーラクラが反論した。
「でも、私はダーに怒られたことはありませんよ」
「それは、わたしがコンピュータだからです」
ダーはとてもシンプルに答えた。
「コンピュータはそういうことはしないものです」
「コンピュータのことは、ともかくとして」
ボゥシューは、リーボゥディルに言った。
「あまり理不尽に怒られるのもアレだから、宇宙船に来たら、オマエの代わりに、説教しといてやるよ」
「いえ、いいです」
リーボゥディルは、ボゥシューの申し出を断った。
「どうして?」
「たぶん、こっちに来るころには、ママも忘れてると思うので。あなたに言われて、また思い出されたら困ります」
「ふむ、そうか」
そのへんの事情は家族ごとに違うのだろうし、あまり余計なことはしないほうがいいんだろうな、とボゥシューは思った。




