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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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光る人たち(5)


――あれ? こんなだっけ?

 ジムドナルドがゴーガイヤに会うのは、ベルガーでビルワンジルが槍で粉々にしたとき以来だが、ひさしぶりに見るゴーガイヤは、なんだかずいぶん小さい。

「アンタ、ダレ?」

 ゴーガイヤが聞いてきた。思い出してみると、最初は多目的機(マルチロール)の中から呼びかけていただけだし、2度めはずっと宇宙服を着込んだままだった。遮光性の強いバイザー越しでは顔も見えなかったろうし、まあ、当然かな、とジムドナルドは思った。

「ジムドナルドだよ」

 ジムドナルドの名を聞いた途端、ゴーガイヤは渦巻状の光の微粒子となって、消え去ろうとした。が、部屋ごと強力なプラズマシールドに囲まれていては、逃げることはできない。壁に何度もバウンドしては、渦巻きと人型を交互に繰り返して逃げまどっている。

「おい、こら、落ち着け」

 ジムドナルドは落ち着いた声で、穏やかに言った。

「別に何もしないから、こっちに来いよ」

 本当か? と、人型に戻ったゴーガイヤは、恐る恐るジムドナルドに近づいてくる。

「うはははは、騙されたな」突然、ジムドナルドが大きく手をひろげて威嚇した「俺はお前みたいな光子体(リーニア)が大好物だ。頭からまるごと喰ってやる」

「うわぁぁぁ」

 悲鳴を上げるももどかしく、散り散りになった光の微粒子は、形もとりきれずに部屋中に拡散し、光の雲のまま右往左往している。

「こらあ、いいかげんにしろ」イリナイワノフが(いか)った「なんで、そんな余計なことすんのよ。この馬鹿ドナルド」

 光の雲は、半ば人型を取りつつ、仁王立ちのイリナイワノフの後ろに、さっと身を隠した。

「ああ、すまん、すまん」ジムドナルドは頭を掻いた「こういう純朴な奴とは、最近会う機会がなかったんで、つい」

 だいたい、お前なあ、とイリナイワノフ相手では分が悪いとみたジムドナルドが、後ろにはりついて明滅している、光の塊に矛先を向けた。

「なんで、逃げるんだよ。お前が逃げたりするから、からかってみたくなるんじゃないか」

「ジムドナルド、恐い」

 ようやく人型を取り戻したゴーガイヤが言った。

「恐くねえよ。誰だよ? そんなこと言ったの」

「レウインデが、ジムドナルド、いちばん陰険で何するかわからない奴、って言ってた」

――あの野郎

 いっぺん、きっちりしめておかないといかんな、ジムドナルドは思った。

「レウインデは嘘つきだから、あいつの言うことなんか信じるなよ」

「嘘つき? レウインデが?」

「そうだ」

 ゴーガイヤはちょっと何か考えている風に見えた。

「レウインデは、たしかに、嘘つき」

 ゴーガイヤは言った。

「わかった。アンタ、信じる」

 いや、それはどうかな、と、ビルワンジルは思ったのだが、話がややこしくなりそうなので黙っていた。

「よし、いい子だ。もう脅かしたりしないから、安心しろ」

 ジムドナルドは自分だけ椅子に腰掛ける。

「で、何のようだ?」

「それが、よくわからないんだ」

 ゴーガイヤは途方にくれた顔つきで言った。

「ずっと、こうなんだよ」イリナイワノフも困った顔だ「あたしも、どうしたらいいんだか、わからなくて」

「上出来だ」

 ジムドナルドの言葉に一同あっけにとられる。だが、ジムドナルドは関係なしだ。

「だって、そうだろう。困ってる原因がわかってるんなら、原因を取り除くだけでいいんだ。そんなのは困ってるとは言わん。まあ、たいていは原因だと思ってるものはカン違いなんだけどな。何だかよくわからないが困ってる。俺んとこくるやつはみんなそうだ。だから安心しろ。なるようになる」

 ジムドナルドは立ち上がって、ゴーガイヤに近づいた。だいぶ小さくなったとはいえ、まだジムドナルドが見上げる大きさだ。

「お前、強くなりたいだろ?」

「そうだ」

「でも、もう、それだけじゃ不安なんだな?」

「そう…、かも、しれない」

「負けたからか?」

「違う」

「そう、違うな」

 ジムドナルドはまた椅子に腰掛けた。

「ゴーガイヤ。お前、結構いい線いってるぞ。あと少しだな」

「あと少し?」

「そうだ。あと少しだ。」

「あと少しでわかるのか?」

「いや、わからなくなる」

「わからなくなったら、困る」

「そうだ、だからいいんだ」

 ジムドナルドは立ち上がって、大きく手を広げてポーズをとった。

「お前、いままでもわからないこと多かったろ?」

「…そうだ」

「でも、困らなかった」

 ゴーガイヤは驚いた。そしてジムドナルドの言ったことに肯いた。

「そうだ、オレ、わからなくても困らなかった」

「でも、いまは、わからなくて、困ってる」

「そうだ」

「だから、大丈夫だ」ジムドナルドは笑った「お前は大丈夫だ。でも、こういうのは一気にやっちゃ、いけない。あせらず、じっくりやるんだ。今日はこんなもんだ。また来いよ」

「または、無理だ」

 ゴーガイヤは悲しそうな顔をした。

「今日は、特別なんだろ? また来ても入れない」

「ああ、それは、なんとかする」

 ジムドナルドは天井に向かって叫んだ。

「おーい、ジルフーコ、聞こえるか?」

「そんな、大声出さなくても聞こえるよ」

 部屋中にジルフーコの声が響いた。

「ゴーガイヤがこれからも来れるように何とかしてくれ。もちろんゴーガイヤだけだ。他の奴は入れないようにだ」

「ちょっと待って」

 数十秒の沈黙の後、再びジルフーコの声が聞こえる。

「いまゲート開けるから、ゴーガイヤ、ゲートは何色に見える?」

「緑だ」

「なるほど緑か、キミにはそう見えるんだね。いま、キミだけ通れるはずだから通ってみて」

「え?」

 躊躇するゴーガイヤ、だが意を決したらしく、恐る恐るゲートに近づく。

 いきなり、ゲートから顔が突き出て、ゴーガイヤは驚いた。

「あ、これいいね。ふーん、こういうやり方あるんだ」

 レウインデはゲートから首だけだして、あたりを見回している。

 ジルフーコがゲートを遮断するより早く、レウインデが入ってきた。

「ゴーガイヤだけ、って言っただろ?」

 不満気にジムドナルドが声をあげる。

「ゴーガイヤの固有振動に合わせて開けたんだ」ジルフーコが弁解した「それに合わせられちゃったみたい。まあ、しょうがないよね」

「そうそう、しょうがないしょうがない」

 レウインデがにこやかに引き継ぐ。

「そんな顔しないでよ。私だって君たちとお話ししたいんだよ。ゴーガイヤとばっかり話してたら、私すねちゃうぞ」

 


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