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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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光る人たち(3)


 嵐のように立ち去っていったボゥシュー。

 アグリアータはしばし呆然としていたが、やがて、その表情に喜色が芽生え、大きな感情のうねりとともに恍惚が押し寄せてきた。

「あの子…、助かるのね。こんどこそ、本当に…、元気になるって」

「そのとおりだ」

 ラクトゥーナルは言った。

 アグリアータはラクトゥーナルを見た。普段のラクトゥーナルであれば、絶対に言わないであろう言葉を、そのときアグリアータは聞いたのだ。

「あなたも、そう思うの?」

「ああ、そうだ、リーボゥディルは元気になる。普通の光子体(リーニア)の子と同じように。絶対だ」

「なら、大丈夫ね」

 アグリアータの顔に微笑みが生まれた。それは、ラクトゥーナルがかつて一度も見たことのない彼女の表情だった。

 

「あー、いろいろすまんが、リーボゥディルの親に戻るのは、もうちょっとだけ待ってくれ」

 ジムドナルドは、口ではすまない、などと簡単に言ったりするが、基本、腹の底から他人に謝ったりしない男だ。

「30分だ、30分でいい。最初の光子体(ピスリーニア)の鬼炎の右腕と蒼氷の左腕、アグリアータとラクトゥーナルで、あとしばらく付き合って欲しいんだ」

 いきなり昔の通り名が出てきたところで、アグリアータとラクトゥーナルは夢の未来から、ちょっと嫌な現実へと引き戻された。

「ああ、まあ、それについては。もちろん、あなた方のしてくれたことに対する感謝の気持ちもこめて、どんなことにでも、答えることにやぶさかではない」

 相手がジムドナルドに変わったということで、ラクトゥーナルは、必要以上に固くなった。

 これはアグリアータも同様で、もしかするとジムドナルドの風評が影響しているのかもしれない。

 ただ、残念ながら、ジムドナルドには、そういう相手の心情をおもんばかるという習慣がない。

最初の光子体(ピスリーニア)の夢ってのは何だ?」

 アグリアータとラクトゥーナルは、ジムドナルドの問いに顔を見合わせた。

「すまない、何を聞かれているのかよくわからない」

 あまりに突拍子もない質問だったので、ラクトゥーナルは反射的に本音を言ってしまった。

「いや、べつに無いなら無いでもいいんだが、それなりに付き合いは長いんだろ? 将来の希望とか、何かやってみたいこととか、こうなって欲しいとか、何かの拍子にそういうことを話したりしたことはなかった?」

最初の光子体(ピスリーニア)のか?」

最初の光子体(ピスリーニア)のだ」

 ラクトゥーナルは考え込んでしまった。

 代わりに、というわけでもないだろうが、アグリアータがジムドナルドに尋ねた。

「あの…、こんなこと聞いていいものかどうかわからないけど、最初の光子体(ピスリーニア)の夢がわかると、ジムドナルド、あなたには何かの役にたつの?」

「それも含めて、よくわからん」

 ジムドナルドは立ち上がり、冬眠あけの熊のように落ち着かない様子で部屋の中を歩き出した。

「とにかく、よくわからないんだ。光子体転換を最初に成し遂げ、他の胞宇宙(セルベル)を初めて訪れた。それに飽き足らず、25481回の胞障壁(セルレス)超えに挑戦し、25453回失敗している。第2類量子コンピュータの建造に着手し、これを完成させるものの、胞障壁(セルレス)突破が不可能と見るや、部分集合を無理やり引き抜いてサイカーラクラまで作った。そして今度は、地球人から俺たちを選び出して、宇宙船に詰め込んで、無理やり宇宙に放り出す」

 ジムドナルドは、いったん話を切って、紙くずをまるめて放り投げるしぐさをした。

「俺たちにからむ分だけでも、これだ。あんたたちと組んで胞宇宙(セルベル)を飛び回ってたときは、もっといろいろやってたんだろ?」

「まあ、いろいろやったな。あまり普通でないことも、ずいぶんやった」

 ラクトゥーナルはしぶしぶ肯定した。

「それだけ、いろいろ、やって、結局、最初の光子体(ピスリーニア)は、本当は何がしたかったんだ?」

 アグリアータもラクトゥーナルも、ジムドナルドの問いに答えられなかった。

 答えは意外なほうから飛び込んできた。

「僕はなんとなくわかる気がするな」

 そう言ったのはタケルヒノだった。

「何でおまえがわかるんだよ」

 ジムドナルドは毒づいたが、まあ、普通の反応だろう。

「寂しがり屋なんだよ。叔父さんは」

 タケルヒノは、くすり、と笑った。

「だから、たぶん、友だちが欲しかったんだと思う。僕じゃ、友だち、ってわけにはいかないみたいだったからな」

「じゃ、何か? 近接胞宇宙(セルパッハベル)をくまなく渡り歩いてたのは、友だちを探してたっていうのか?」

「それが、いちばん近いかもしれない」

 アグリアータがぼんやりと呟いた。

「彼が、何かを探し求めていたのは、なんとなく、あたしにもわかってた。宇宙の真理、とか、そういう類かと最初は思ってたんだけど、そういうのではないのは、そのうちわかった。友だち、なら、しっくりくる」

「いや、探してたのは、宇宙の真理かも、しれないだろ?」

「それは、ない」

 ラクトゥーナルは、あっさりと否定した。

「真理、というか、この宇宙のことを簡約可能とは彼は考えていなかったから。宇宙を完全に記述するには、まるごともう一個の宇宙が必要だと、真理とは、強いてあげれば宇宙全体のことだと、いつも言っていた」

「よーし、最初の光子体(ピスリーニア)のことについて、だいぶわかってきたぞ」

 ジムドナルドは指を折りながら数え始めた。

「1つめ、頭はそんなに悪くない、それほど良いとも思えんが、平均以上なのは確かだ」

 そうだな、そうね、と、これについては反論はなかった。

「2つめ、寂しがり屋で友だちを探しているが、いまだ見つかってない」

「もし友だちがいたら、ものすごく自慢しそうな気がするよ、あの人は」

 ラクトゥーナルが言い、アグリアータも肯いた。

「そして、人間のクズだ」

 これについては2人とも、困ったような顔をしたが、あえて否定するほどの材料もないので無言のままでいた。

「頭のいい寂しがり屋で、友だちのいないクズ」

 ジムドナルドは高らかにまとめ上げた。

「ここまでわかれば、会った時にすぐ気づく、ありがとう、おふたりさん、おかげで目処がついた」

「あらためて、まとめられると、ずいぶん嫌な感じだが、言われてみると、そんな感じかな」

 ラクトゥーナルはアグリアータの耳元で囁いた。アグリアータは否定するかと思いきや、微妙な表情で声を潜めた。

「それほど悪い人だとは思ったことはなかったけど、確かに良い人でもなかったわね」

 

「ところで、次の質問だが」

 ジムドナルドは切り替えが早い。

「もう、ダメそうなのか?」

 何が? と異口同音に返ってきた言葉に、ジムドナルドが、思い切りかぶせる。

「とぼけるなよ。最初の光子体(ピスリーニア)の容態だ。クローンの心配までしなきゃならんほど具合が悪いのか、って話だよ」

 


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