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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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光る人たち(2)

 

「まず、リーボゥディルの現状から話す」

 ボゥシューはヘルメットを脱いでテーブルに置いた。

「現在、小康状態を保っているが、いろいろと不安定な部分がある。プラズマシールド突破の際の損耗なのか。それ以前に不安定な兆候があったのか判然としないから、そのあたりのことを聞きたい」

「プラズマシールド突破の損耗、って何のこと?」

 そこからか、ボゥシューは呟くと、タケルヒノとジムドナルドに目をやった。2人が同時に目をそらしたので、ひとつ嘆息をついて、呼吸を整えてから、アグリアータに説明した。

「航宙用最外殻プラズマシールドを突っ切って、宇宙船(ボード)内に侵入してきた。こっちが発見したときは、エネルギーをほぼ全て消耗した状態、情報核(リーンファニム)だったので、(ニム)の損傷の程度がこちらの検査だけではよくわからないんだ」

 お、と小さく嗚咽を漏らしたアグリアータは、顔を両手で覆ってしまった。小刻みに明滅する彼女の傍らに、ラクトゥーナルが無言で寄り添った。

 ボゥシューは、アグリアータが落ち着きを取り戻すのを待つようなことはせず、コンソールを叩いて、データを表示した。

「これが現在のリーボゥディルの情報核(リーンファニム)の連接次元情報を超立体記述したもの。突入前のデータはあるか?」

「あります」

 アグリアータはコンソールに右手をかざしてデータを伝達した。

 瞬時に、コンソール内の超高次元立体が、数軸同時に回転し始める。

「いいぞ、一致指数は1024ビット幅で最下位3ビットに差が出ているだけだ。突入の影響はほとんどない」

「何故、こんな速さで一致指数が出るの?」

 アグリアータが驚きの顔で、ボゥシューを見つめる。

「ダーだよ」ボゥシューが答えた「時間のかかる複雑な計算はみんなダーがやってくれている」

「ダー?」

 ああ、と、いま思い出したようにボゥシューが言う。

「第2類量子コンピュータのことだ。ワタシたちはダーと呼んでる」

「第2類量子コンピュータなら、当然ね。でも…」

 アグリアータは複雑な表情をした。

第一光子体(ピスリーニア)の原初遺伝子推定に、3階積分補正するのをダーに断られたことでも思い出したか?」

「それは…」

「ダーが断ったのは、計算することじゃなくて、第一光子体(ピスリーニア)のクローンを作るのをやめろ、という意味だったと思うぞ」

「…そのとおりです、けど。第2類量子コンピュータに聞いたの?」

第一光子体(ピスリーニア)とリーボゥディルの一致指標が99.99278%だ。2階補正までしかしていない。実質的に第2類量子コンピュータでなければ、階数3以上の積分補正は計算量的に不可能だから、やらなかった理由はわかる」

「確かにあたしではそれが限界だった」

「あと、ダーが断ったと推定した理由がもうひとつある」

「もうひとつの理由?」

「ダーも、それにワタシたちも、第一光子体(ピスリーニア)がろくでもないヤツなのは知ってるから」

 アグリアータは深く嘆息し、何も言わなくなった。

 代わりというわけでもないだろうが、ラクトゥーナルが言い訳にもならない言い訳を口走った。

「それでも、そのときは、他の方法よりは、多少マシに思えたんだ」

「遺伝子シーケンサを通してからはどうした?」

 ボゥシューは感傷にひたったりはしないようだ。

「受精卵の遺伝子と交換」

 アグリアータが死人のような無表情さで答える。

「まあ、妥当だな。自己キメラ化されてるが、成長後か?」

「それはボクがやった」

 ボゥシューの問いにラクトゥーナルが答えた。

「遺伝子シーケンサを通した後のチェックをすり抜けた遺伝病が発症したんだ。6歳のリーボゥディルの脊髄から採取した細胞に遺伝子改変を加えて、万能細胞化した後、もとに戻した」

「脊髄でやったのはまずかったな。精母細胞を使うべきだった」

「いまなら、そう思う。あの時はあせっていた、いまにも死にそうで…」

「あなたのせいじゃない」

 アグリアータは全身を瘧のように震わせながら言った。

「誰のせいとか、そんなことはどうでもいい」

 ボゥシューが蹴散らした。そんなのは後でやってくれ、というのが顔にありありと出ている。

「まあ、その後4回のキメラ化で、どうにかバランスをとるところまでこぎつけたのは、褒めてやってもいい。成人まで成長させるのをあきらめたのは3回目か?」

「わかるのか?」

 ラクトゥーナルは驚きの声をいったん上げたが、すぐに首を振った。

「そりゃあ、わかるよな、わからないわけがないな」

「3回目から致死遺伝子のいくつかを、あきらかに無視してるからな」

「あの子が、光子体(リーニア)になりたいと言ったの」

 アグリアータはうつろな目で、過去の自分に語りかけるように言った。

「みんなで、一緒に、光子体(リーニア)に、って」

「まあ、賢明な判断だろう」

 ボゥシューは、何か、別の星で起こった出来事にコメントするように言った。実際、そうなのだが、それは、とてもおかしなことのようにも思えた。

「よし、事情がはっきりしたから、治療方針は定まった。並みの光子体(リーニア)ぐらいまでは元気になる」

「できるの?」

 驚いて問うアグリア―タに、ボゥシューは不可解を眉間にかぶせて、聞き返した。

「できない理由でもあるのか?」

 しばし視線をぶつけあった2人だったが、アグリアータの焦点が虚ろにずれて、言った。

「何も、ないわ」

 ボゥシューは立ち上がり、ヘルメットを取った。

「ワタシはこれで帰るけど、用が済んだら、宇宙船(ボード)まで来てくれ。余計なお世話かもしれないが、そこから先は、もう、アナタたちは、フラインディルとスラゥタディルだ。そうでなければ、リーボゥディルには、会わせられない」

「もちろんだ」

 ラクトゥーナルは答えた。

「いつまで、できるかしら?」

 アグリアータは、まるで他人事のように、虚空にむかって問いかけた。

「あたし、いつだって、それが一番心配なの」

「できるか、じゃなくて、やるんだ」

 ヘルメットをかぶったボゥシューは、言いながら、フェースガードを閉じた。

「あと、いつまで、とかじゃない。未来永劫だ」

 

 


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