薄暮の御廟(3)
「話しって何よ?」
とりあえずイリナイワノフ、聞いてみたのだが、ゴーガイヤは要領を得ない。
「よくわからないんだ」
「話したいことがあるんじゃないの?」
「オレ、姉さんと、兄貴と、話したいんだ」
「だから、何を話したいのよ」
「…わからない」
――こっちのほうが、わけわかんないよ、もう
イリナイワノフはブチ切れ寸前である。
「あのさ」
イリナイワノフでは埒があかないと思ったのか、ジルフーコが口をだす。
「いま、ちょっと取り込み中なんだけど、後じゃだめなの?」
「ずっと、待ってた、いつも無理。いま、会える」
「ああ、シールドか」
ジルフーコは、やっと納得がいったようだ。
「いますぐは無理だけど、48時間以内に何とかするよ。いつでもは、ダメだけど、ときどき会えるようにする」
「ほんとうか」
ゴーガイヤは首を引っ込めてぐるぐる回り出した。
うれしい、のかもしれない。
「そんなこと言って、大丈夫なのか?」
ビルワンジルが言う。ビルワンジルでなくても心配なところだ。
「まあ、デブリ対策でずっとシールドかけっぱなしにしてたけど、そろそろ情報体とも話し合わなきゃいけない頃合いだしね。リーボゥディルみたいな無茶な真似されても、こっちだって困るし、ちょっとタケルヒノとジムドナルドにも聞いてみるから」
ジルフーコはタケルヒノとジムドナルドとの回線を開いた。
「やあ、シールドは切ったよ。そっちの調子はどう」
「いきなり通りすぎる光子体が5倍くらいになったぞ」
「こっちは、あまりかわらないな。場所によるんだろうな、もっとも、こっちは遠巻きに見てる光子体ばかりだからかもしれない。いま、タルなんとかのところに行く途中」
「こっちはゴーガイヤが来てる」
「何でゴーガイヤが?」
「どうも、イリナイワノフとビルワンジルと話したいらしいんだが、要領を得なくて困ってる。時間がかかりそうだが、ここでは難しい。で、相談なんだけど。シールドを部分解除して、光子体の入れるスペースを宇宙船に作りたい」
「お、いいな、それ。こっちもリーボゥディルの親を捕まえてから、どこで話すか迷ってたんだ。すぐできるか?」
「すぐは無理だな。宇宙船に帰るのだってけっこうな時間がかかるんだ」
「僕の乗ってきた小宇宙船はどうだ? ビオトープゾーン側は無重量にしてしまったんでグチャグチャだが、居住区のほうは使えるはずだ」
「いいね、それ。それなら即席でなんとかなりそうだ」
「話はついたよ」
ジルフーコは回線を切り替えた。
「ああ、そこのキミ、そう、ゴーガイヤ。後で来てくれなんて言っても我慢効かないだろうから、一緒についてきてよ。そのかわり宇宙船に着いてボクが、いいよ、って言うまでは、話しかけないこと。いちいち説明してるヒマないからね。話は小宇宙船に着いてからにしてくれ」
「夫婦の光子体を知らないか?」
ジムドナルドの呼びかけに何体かの光子体が振り向いた。
「光子体の夫婦だって?」
通りすがりの光子体が逆に聞いてきた。
「ずいぶん、珍しいモン探してるんだな。どうしてだ?」
「子供を預かってるんだ」
「家族だって? そりゃまた、珍しさ、とびっきリだ」
ジムドナルドに尋ねた光子体が、あたりに触れ回った。
「おーい、夫婦とか、それくらい仲のいいヤツに心当たりのあるのいないか?」
「それ、難しいな」
横から飛んできた光子体が言った。
「仲の悪い夫婦っぽいのなら、知ってる」
「ちょ、何だそれ」
最初にジムドナルドに声をかけてきたほうが笑った。
「光子体なのに、夫婦で仲がわるいとか、意味わからんな」
「子供が見つからないとかで、大喧嘩してたんだよ」
「それだ」
ジムドナルドが声を上げた。
「そいつらどこにいる?」
「ゲート2つくぐった先だ」
後から来た光子体が答えた。
「いまもいるかは知らんぞ」
「十分だ。ありがとう」
ジムドナルドは光子体たちに礼を言うと、先へと飛んだ。
――それにしても
シールドを解き放っただけで、これだけ対応の違う奴が増えるとは。
パラレスケル=ゼルは、かなり、歪な状態になってたらしいな、とジムドナルドは思った。




