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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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閉塞空間(6)

 

「これで全員?」

 第1区画エレベーター前、ビルワンジルがタケルヒノに尋ねた。

「いや、ボゥシューが、まだだよ」

「え? ボゥシューも来るのか?」

「俺が誘ったんだよ―」

 にこやかに自慢?するジムドナルド。

――オマエか、面倒ごと増やしやがって

 口を開きかけたビルワンジルだが、居室スペースからやって来るボゥシューを認め、口をつぐんだ。

「お待たせ」

 宇宙服のデザインに時間がかかった、とボゥシューが言う。男性三人の船外服はタケルヒノがデザインしたが、ボゥシューは、自分の分は自分で作る、とゆずらなかった。いろいろこだわりがあるらしい。タケルヒノは、気密試験の要綱と体温調節機構の仕様、バーニヤスラスターとライフワイヤーウインチの出力だけを指定して、後はまかせた。

「まず、無重量区画でウインチの使い方を覚えよう」

 言いながら、タケルヒノは他の三人をエレベーターに促した。

「何?それ?」

 タケルヒノが担ぎあげた金属の筒を指さして、ボゥシューが尋ねる。

「キャプターランチャー」タケルヒノが答える「投網みたいなもんだよ。使わないに越したことはないけど、念のため」

 

「ライフワイヤーを船壁についてるアンカーに固定して、これがいちばん大事だから、しっかりね」

 無重量区画のエクスポートゲート前に立って、タケルヒノが言う

「無重量だけど、まだ船内だから多少失敗しても大丈夫だ。落ち着いて。あ、だめだよビルワンジル、ジムドナルド、アンカーは他の人と違うのを使って、万が一、アンカーが抜けたら、二人まとめて飛ばされてしまう。アンカーは、一人でひとつ、必ずだ」

 タケルヒノは自分もライフワイヤーを固定して、壁面に立った。

「ウインチをフリーにして、壁を蹴る。そしてウインチをワンプッシュで固定、そこから巻き戻して、戻る。じゃ、もう一回ね。壁を蹴る。ワンプッシュで固定。外に出たら、この状態でスラスターが使えるから方向も変えられる。でも、いまは船内なんで無理。はい、巻き戻して…」

「なんで、タケルヒノはこんなに詳しいんだ?」

 ヘルメットをくっつけて、ジムドナルドがビルワンジルに尋ねる。

「さあな、昔、宇宙に住んでたことがあるんじゃないのか?」

 

 三十分ほどの船内訓練を終えて、ようやく四人はエクスポートゲートを通って外に出た。

「ライフワイヤーの固定できた?」

 全員のヘルメット内にタケルヒノの声が響く。できたよ、と三つの声がヘルメットの中でこだました。

「靴底のマグネットとスタビライザーが連動してるんで、移動だけなら船壁歩くほうが速いよ」

「何だって?」ボウシューの声がキンキン鳴る「そんなの聞いてないぞ」

「そんなかっこ悪い靴、履くの嫌だって言ったじゃないか」と、タケルヒノ「船外作業には絶対あったほうが良いって、あれだけ言ったのに」

「宇宙遊泳には関係ない」

――そりゃ、そうだけど

 もう、みんな、勝手に動き始めたので、あわててタケルヒノは付け足した「ワイヤーリリースボタンは絶対押さないで、それ非常用だから、絶対だよ」

 

 ビルワンジルは、ぼんやりと宇宙空間に漂っていた。

 それは彼の生まれて初めての経験で、いや、そればかりでなく、こんな状態を経験した人類は実際ほとんどいないのだが…

 タケルヒノはつきっきりでボウシューの世話を焼いている。普通ならそれで手いっぱいのはずだが、ジムドナルドもかなり危なっかしいので、そちらにも気を払わなけにはいかない。

 おかしいよな、やっぱり、と、ビルワンジルは思う。

 宇宙人だから、と言われたほうがよっぽど納得できる。それほど、タケルヒノは普通に見えた。

 

 やけにジムドナルドのワイヤーが伸びてるな、とは思っていた。

 ヘルメットのスピ―カーにはボゥシューとそれに答えるタケルヒノの声ばかりが響くので、気づくのが遅れた。

「おい、ジムドナルド、だいじょうぶか?」

 返ってきたのは、途切れがちなジムドナルドの声。

「いや、なんか…、うまく行かなくて、スラスター…、止まらないん…」

「スラスター止めて」タケルヒノの声が響いた「ウインチ戻すんだ」

 タケルヒノの指示は間違ってはいないものの、パニック寸前の人間に、二つの動作を同時に要求するのは無茶だ。

 もがくジムドナルドはベルトまわりを弄っている。ピーンと張ったワイヤーの先端がジムドナルドの体から離れたのがビルワンジルにも見えた。

 マズイ、と感じるより早く、ビルワンジルはスラスター出力を最大にしたが、もともと姿勢制御用のバーニヤ。まるでスローモーションのように飛んで行くジムドナルドとの距離は、まったく縮まらない。

 タケルヒノがウインチを最大速で戻す。船壁に着いたタケルヒノは、キャプターランチャーを固定しなおして、一気にぶっ放した。

 小ぶりな大砲の弾は、ジムドナルドの脇をかすめ、大きく弧を描いて向きを変える。よく見ると弾の尾部にはワイヤーがつながっていて、誘導されてジムドナルドの周囲を弾が旋回することで、彼自身を絡め取っていく。

 キャプターワイヤーでがんじがらめにされたジムドナルド。タケルヒノはジムドナルドが保定されたのを確認して、キャプターワイヤーを巻き戻した。

「ワイヤーリリースボタンは押すなって言ったのに、何で押す?」

 タケルヒノの詰問に、ジムドナルドはバツが悪そうに返す。

「人間、押すなって言われたら押したくなるもんだよ。それに、非常時だったから、つい押しちゃった」

「非常用、って意味違うだろ」

「あ、あ、あー、違うー」

 全員のヘルメットの中をボゥシューの声が荒れ狂う。

「違う、ちがう、ちがうー」突然のことに誰も身動きが取れない。ボゥシューは狂ったように泣き叫ぶ「宇宙船(ふね)はまだ加速中のはずなのに、加速中は宇宙遊泳なんかできない。宇宙船(ふね)から離れたら、相対速度が生じてどんどん遠ざかるハズ」

「落ち着いて、ボゥシュー」

 タケルヒノは飛んで、ボゥシューを抱きとめる。その腕をなぎはらってボゥシューが抗う。

「止まってる、エンジンが止まってるんだ。この宇宙船(ふね)まともに航行して(うごいて)ない」

「よくお聞き、ボゥシュー」タケルヒノは子猫を諭すように優しく慰撫した「エンジンは止まったんじゃない、止めたんだ、だから心配しなくていい」

 ボウシューの双眼が大きく見開かれるのが、ヘルメットの遮光板越しに見えた。

「エンジンは止めた」タケルヒノは繰り返した「僕たちが止めた。何故、止めたかは、これからきちんと説明するよ」


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