薄暮の御廟(1)
「艦長、パラレスケル=ゼルより入電であります」
ヒューリューリーがそう言うのだが、いったいどこでこんなことを覚えてくるのか、本当に不思議だ。
「ああ、そう、それで何て言ってきてる?」
タケルヒノも意外とノリノリだ。
「本艦停止の後、最寄りのハッチ前で待てとのことです」
「ドッキングベイは使わせないって?」
「規格があわないそうであります」
「よくわかったよ」
タケルヒノは減速中だった小宇宙船をわずかに加速に切り替え、シールドの出力を上げた。
「速度を上げたら、ぶつかりますよ」
ヒューリューリーが言った。
「ぶつかったら止まるよ」
「穴が空きますけど?」
「むこうにね」
「開いたらそこが入口ですか?」
「むこうが指定してくれないなら、こっちで選ぶさ」
「当然ですね」
ヒューリューリー傍の安全バーにキツく巻き付いた。緩衝器に収まっておとなしくしているザワディに言う。
「ザワディ、いよいよ、面白くなりそうです。気を引き締めて行きいましょう」
ザワディは、何をいまさら、という顔をしていたが、無視するのもどうかと思ったらしく、あおん、と短く啼いた。
「いま、凄く揺れたね」
パラレスケル=ゼルの中、チューブ状の通路を飛翔中のイリナイワノフが言った。
「タケルヒノが突っ込んだんじゃないかな」
前を行くジルフーコの声がヘルメットのスピーカーからイリナイワノフの耳に入る。
「何で、タケルヒノが突っ込むの?」
「タケルヒノを怒らせたヤツがいるんだろ」
先頭を行くビルワンジルの間延びした声がヘルメットに響いた。
「タケルヒノは、あれでけっこう沸点が低いからな」
「でも、怒ったとこみたことないよ」
「そりゃあ、普段から怒らせにようにしてるし」
「怒らせようと、思ったこともない」
パラレスケル=ゼルの内部通路を殿軍で飛ぶイリナイワノフは、ふと、あることに気がついた。
「ねえ、ジムドナルドはどこに行ったの?」
「さあ、ねえ」
ヘルメットにジルフーコの声。
「リーボゥディルの両親を助けるって言ってたから、そのへん探しまわってるんじゃないかなあ」
「ひとりで?」
「宇宙服に発信機つけてるから、居場所ぐらいはわかるよ」
「大丈夫なの?」
「ジムドナルドだのタケルヒノのことなんか、心配するだけ無駄だ」
ビルワンジルが言った。
「むこうはむこうで、何とかするだろ。こっちはこっちの仕事をしよう」
「もう元気になりました」
エネルギーポッドの中から、リーボゥディルが訴えた。
「ジムドナルドと話させてください」
「ジムドナルドは、いま、パラレスケル=ゼルに行ってる」
「え?」
ボゥシューの答えに、リーボゥディルはとまどいの表情を見せた。
「ジムドナルドだけじゃないな。みんなパラレスケル=ゼルだ。残ってるのはサイカーラクラとダーとワタシだけだ」
リーボゥディルを落ち着かせるように、ボゥシューは笑んだ。
「心配するな。ちゃんとうまくやってくれるから。アイツらはいつもそうだ。ああ、そうそう、元気になったんなら、もうエネルギーポッドは出ていいぞ。船内は自由に動きまわっていい。ただ、船壁のシールドは以前より強化してあるから、ぶち当たろうなんてバカなことは考えないでくれ」
「迷子の子の親を探してるんだ」
ジムドナルドの声はエネルギー波に変調されて、周囲の空間に拡散する。
ほとんどの光子体は通り過ぎるだけだが、たまに応じる者がいる。
「先駆体なんて、珍しいね」
「そりゃそうだ、胞障壁を超えて来たんだから」
「先駆体が胞障壁超えるなんてできるわけないじゃない」
「超えられなかったら、ここにいるわけないだろう?」
数体、様子見に集まっていた光子体は、ジムドナルドの返答を聞くなり、さっと消えてしまった。
――思ってたよりプライド高いみたいだな
プライドが高いのはかまわないが、現実を直視できないのは困りモノだ、とジムドナルドは思った。




