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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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光の矢(6)


「何だこりゃ」

 ボゥシューが作業中のコンソール内に、びっしり並んだ記号を覗いて、ジムドナルドが口をはさむ。

「リーボゥディルの光子体転換前の遺伝子マップの推定値だ」

 ボゥシューはジムドナルドを見向きもしない。

「やっぱり、それ、比較してみるのか」

 ボゥシューの隣で作業をしていたタケルヒノが、あまり気乗りしない調子で呟くと、ボウシューのコンソールを叩いていた手が止まった。

「やめといたほうがいいと思うか?」

「いや、やるんなら止めないが、一致指標値は99・99278%だから、本人推定だけならやる必要はない」

「そうか」ボゥシューはコンソール上のデータをまるごと消した「それだと具体的に何かに使えるわけじゃないからな、やめとこう」

「あんまり愉快な話じゃなさそうだな」

 ジムドナルドの問いを先回りして、ジルフーコが結論を言ってしまう。

「リーボゥディルの転換前素体が第一光子体(ピスリーニア)のクローンだってこと、しかもクローンとしての質はあまり良くない」

「そうか」

 ジムドナルドは反論もせず、ただ長い嘆息をついただけだった。

「施術者たちは、もう、そこそこ反省してるんじゃないか? だから、成長前にも関わらずリーボゥディルの願いを聞き入れて、光子体転換してしまった。後はリーボゥディルが気づくまで、ずっと家族でいる気だろう」

第一光子体(ピスリーニア)にバレて叱られたか?」

 ジムドナルドが力なく笑った。

「その程度で引くぐらいなら、最初からこんなことしないだろ」

 ボゥシューはジムドナルドの意見には賛同しなかった。

「何を基にクローニングしたのか知らないが、その一致指数だと生体機能を維持するのもかなり困難だ。リーボゥディルは幼児の頃、ずっと入院していたと言ってた。おそらく、できることは全部やったんだろう。企ては間抜けだが、現在のリーボゥディルの状態を見れば、つぎ込まれた技術だけは一線級だ」

「別に第一光子体(ピスリーニア)なんか関係ないと?」

「リーボゥディルと家族(丶丶)になろうと思ったのは、少なくとも第一光子体(ピスリーニア)とは関係ないと思う」

「よし、決めた」

 突然、ジムドナルドが立ち上がった。

「俺は、リーボゥディルの両親を助けに行くぞ」

「ああ、いいよ」

 タケルヒノはコンソールから目を離さずに言った。

「僕のほうで、例のタルなんとか(丶丶丶丶丶丶)の相手をするよ。さすがにひとりじゃキツイから、ヒューリューリーとザワディに手伝ってもらう」

「わかりましたぁ」

 ひさびさにヒューリューリーが一本伸びをして、あやうく天井に頭がぶつかりそうになった。

「おい、大丈夫なのか?」

 さすがのジムドナルドも不安をおぼえたらしく、小声でタケルヒノに尋ねた。

「まあ、なんとかなるだろう。ザワディには、後で僕が直接頼むよ」

「だから、そうじゃなくて…」

「今回はボクも行くよ」

 ジルフーコが右手でメガネを直しながら言った。

光子体(リーニア)をトラップできる宇宙船の装備と言えばプラズマシールドだから、パラレスケル=ゼルのシールド発生機を壊せば物理的には問題の半分は解決するだろうしね」

「お前もタケルヒノも行ったら、宇宙船(ボード)はどうするんだよ」

「ダーがいる」

 ジルフーコはジムドナルドに言った。そしてダーのほうに向いてあらためてお願いした。

「そういうことで、宇宙船(ボード)のことはよろしく。細かいことはサイカーラクラに聞いてね」

 はい、わかりました、と、ダーとサイカーラクラが同時に返事した。

「じゃあ、俺はジルフーコに付き合うよ」

 ビルワンジルが言った。

光子体(リーニア)相手なら、オレも少しは役にたつだろ。イリナイワノフはどうする?」

 問われたイリナイワノフは腕を組んでしばし考えた。

「ボゥシューはどうするの?」

「ワタシはリーボゥディルを見なきゃならんから、船に残るぞ」

「そっか、うーん」

 何をどう考えたのかはわからないが、イリナイワノフは結論を出した。

「あたしはジルフーコと行く。それがいちばん良さそう」

「じゃあ、多目的機(マルチロール)は2機用意でいいね」

「いや、僕のほうはいいよ」

「え?」

 不審げな顔のジルフーコにタケルヒノが言う。

「僕は小宇宙船(ダート)で行くから、それでいいんだろ、ジムドナルド」

 そーそー、とジムドナルドが肯く。

「えらく大仰だな」

 ボゥシューが言うと、ジムドナルドは、ますますふんぞり返った。

「こういうのは、デカけりゃデカイほどいいんだ。さすがに宇宙船(ボード)で行くわけにはいかないから、小宇宙船(ダート)がいい」

「なるほど、では私も発音練習をして、体をもっと大きく見せましょう」

「いや、それはやめとけ」

「どうしてですか?」

 直立した半身をびゅんびゅん振り回すヒューリューリーを迷惑そうに見ながら、ジムドナルドが言った。

「パラレスケル=ゼルは、元宇宙船とは言っても光子体(リーニア)用だから、船内に空気なんかない。お前は宇宙服着て操作盤で筆談」

「なんと」

 ヒューリューリーは体を斜め横に傾け、最大の風切音を発した。

「パラレスケル=ゼルは、お客の扱いがなっていませんね」

「そういうのが偉いと思ってるんだ。小物臭さがぷんぷんするだろ」

 ジムドナルドは笑った。

「だから、やりやすいんだけどな」

 

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