光の矢(5)
「だいたいの話はわかった。後はまかしとけ」
ジムドナルドは言った。
「パラレスケル=ゼルのことをもう少し聞きたいが、それはもう少し回復してからだ」
「ぼくは大丈夫です」
「俺が大丈夫じゃなくなる」
ジムドナルドはリーボゥディルの意見をはねのけた。
「ボゥシューに15分だけだって釘刺されてるんだ。あの女を怒らすと、とんでもない目に合うからな」
「でも…」
「ダメ、と言ったらダメだ。ボゥシューから許可がもらえるように早く元気になれ」
部屋の出口までリーボゥディルを無理やり見送ったジムドナルドは、まだ残念そうな面持ちの光子体に、不意に尋ねた。
「お前の親父とお袋さんは仲はいいのか?」
「え?」
一瞬、とまどいの表情を見せたリーボゥディルだったが、とくに躊躇もせずに答えた。
「普通だと思いますが…」
「そうか…、ありがとう、じゃ、また後でな」
リーボゥディルを送り出したジムドナルドは、タケルヒノに手で合図して、部屋にシールドをかけさせた。
「話し自体に不審な点はあまり見当たらないが」
そう言いながらも、タケルヒノは浮かない顔だ。
「まあ、あいつは嘘をついてないから、話しというかリーボゥディルは信用していいが…、それは置いといてもいろいろ辻褄は合わん」
「親か…」
タケルヒノの呟きに、ジムドナルドが肯く。
「よほどのことでもない限り、子供は親の言うことは信用するもんだからな。辻褄の合わないところはそのへんだろう」
「罠だと思うか?」
いや、とジムドナルドは首を振った。
「そこまで大掛かりにするほどには、俺たちはまだ重要視されてない。まあ、単純な行き違いぐらいの感じだな。タルなんとかの動向にもそれは出てる。何度か通信文を送ってきてるが、こっちを見下してるのが、ありありとわかるし、あいつが手を回してるようには見えん。奴も罠は張ってそうだが、もっと姑息でみみっちいやつだろう」
「読んだのか?」
タケルヒノは眉根をぴくりと動かし、不審げな目でジムドナルドを見た。
「そりゃ、読むさ。もう敵認定したからな」
ジムドナルドは涼しい顔だ。
「間抜けの戯言なんぞ、1行も読む気はしないが、敵の情報なら話は別だ。奴の使ってる歯ブラシの色だって貴重な情報だぞ」
「歯ブラシなんか使うのか?」
「何言ってんだ。タケルヒノ、お前、頭、大丈夫か?」
ジムドナルドは立ち上がり、パネルを操作して部屋のシールドを解いた。
「光子体が歯ブラシなんか使うわけないだろ。お前、疲れてるな。リーボゥディルだけじゃなくて、お前も、少し休んだほうがいいぞ」
「退屈か?」
エネルギーポッドの中のリーボゥディルに、ボゥシューが話しかけた。
「いえ、それほどでも」
リーボゥディルは答えた。
「小さいころは体が弱かったので、こんな感じで過ごしていました。あまりよく憶えてませんが」
「小さいころ?」
「光子体になる前です。病気でずっと病院にいました」
「そうか、余計なこと聞いたな、すまなかった」
ボゥシューには、退屈ではない、と言ったリーボゥディルだったが、強がって見せただけのようだった。とくにボゥシューが聞いたわけでもないのに、光子体になる前のことを話しだした。
「病気は、不治の病とか言われているものだったらしいです。治って退院しても、また同じ病気になって…」
「辛かったな」
「うーん、苦しい時も多かったはずだけど、そっちは慣れっこになっちゃって、あまり憶えてません」
「病気が良くなったところで、光子体になったんだな。病気のままだと、病気の情報まで光子体転換されるから、治ってからでないとダメなんだ」
「パパとママは、もっとぼくが大きくなってから、光子体にするつもりだったらしいです」
「そのほうが安全なんだ」
「みたいですね。でも、もう我慢できなかったから、ダメでもいいから光子体にしてくれって、頼んで、光子体になるちょっと前は、本当に調子よくて、また具合が悪くなったら、もう無理だって、パパとママに頼んで、だから…」
リーボゥディルは、ちょっとだけ黙った。でも、すぐに笑顔に戻った。
「光子体になってからは、本当に楽しかった。3人一緒にいろんな所に言って、ここが宇宙の果てだ、ってパパが言って、氷の惑星もぜんぜん寒くない、もちろん普通の人のいる星も行って、最近だと、光子体なんて普通だから、ってママも言ってて、ずっと一緒に旅してました」
「パパとママもオマエと一緒に光子体になったんだな」
いいえ、とリーボゥディルは言った。
「パパもママも最初から光子体でしたよ」
「え?」
「ぼくが最初に病気になったとき、長くかかる病気だから、何があってもぼくを治せるように、2人で光子体になったんです。だから、病気が嫌だったのもあるけど、パパもママも光子体なんだから、ぼくも光子体になりたいって、一生懸命、頼んだんです」
ボゥシューは何か腑に落ちない顔で、リーボゥディルの話を聞いていたが、はっ、と思い当たることがあって、あわてて話をつけくわえた。
「なるほど、たいへんな病気だったんだな。パパもママもそうとうな決心でオマエの病気を治そうと思ったんだ」




