光の矢(4)
光子体の少年は、ボゥシューに連れられて、ミーティングルームに入ってきた。
もう体はほぼ元通りとはいえ、部屋の中にいる面子がただものではないので、入ってくるだけでもおっかなびっくりのようだ。
「まあ、そう堅くなるな」
ボゥシューが光子体を中央の席に座らせた。
「どこで聞いてきたか知らんが、別にオマエを取って食おう、ってヤツはいない、安心しろ」
「ザワディも?」
少年は恐る恐る、たてがみの生え揃った勇猛なライオンを横目で見つめる。目が離せないようだ。
「ザワディ知ってるのか」
ボゥシューはちょっと驚いた顔で少年を見る。その顔に向かって少年はまくし立てた。
「みなさんのことは、みんな知ってます。タケルヒノもジムドナルドもジルフーコもボゥシューも…」
「ワタシがボゥシューだ」
「あなたが…」
「顔写真付で手配書が回ってるわけじゃ無さそうだな」
ジムドナルドが笑いながら言った。
「名前と顔ぐらいは一致したほうがいいだろう。俺はジムドナルド、さすがにこいつは知ってるだろ? タケルヒノだ」
「よろしく」
おまけで紹介されたタケルヒノが、困った顔で短く挨拶すると、順に皆が名乗りを上げる。
「あたし、イリナイワノフ」
「サイカーラクラです」
「ビルワンジル、よろしくな」
「さすがにヒューリューリーには見えないよね。ボクはジルフーコ」
「私がヒューリューリーです」
ヒューリューリーは、力いっぱい体を振り回した。
「ダーです」
ダー? と目の前のサポートロボットに少年は困ったような顔をした。
「ああ、あなたの聞いているのは、そのあたりまでなのですね」
ダーは言った。
「どう言ったらいいでしょう。第2類量子コンピュータはご存知?」
「はい。もちろん」
「それが、わたしです」
「え? でも」光子体は戸惑いを隠せない「星より大きなコンピュータではないんですか?」
「よくご存知ですね。ちょっと前までそうでしたが、いまは小さいのです」
光子体の少年は、何か言いかけたが、頭を振って押しとどめた。また、何かを言いたそうにするが、うまく言葉にならないようだ。
「落ち着け」
たまりかねてボゥシューが諌める。
「ゆっくり、話せばいいんだ。誰も逃げない」
少年は大きく深呼吸した。光子体には不要な動作だが、生体だったころの名残だろう。
「ぼくはリーボゥディルといいます」
それは彼のいちばん言いたいことではなかったが、何か、そう言うのがいちばんふさわしい気がして、自然と口をついて出た。
「光の矢ですか」
タケルヒノが言った。
「とても良いお名前ですね」
本当はもっと言いたいことがあったのだ。
父のこと、母のこと、そしてほかの光子体、そして、そして…。
もっとよくわからない、いろいろなこと。
でも、自分の名を言ったときに、それらすべてがタケルヒノに通じたような気がした。
そして、それは。
気のせいなんかではなかった。
「とりあえず、自己紹介もすんだことですし、こう人数がいたのでは話もしづらいでしょう」
タケルヒノは言って、リーボゥディルのとなりに進み出た。
「疲れてませんか?」
「いいえ、全然」
リーボゥディルには、他の答えをまったく思いつくことができなかった。
「じゃあ、もう少しがんばりましょう。ジムドナルド」
おう、と答えて、ジムドナルドはソファから立ち上がった。
「僕とジムドナルドでもう少し詳しく話を聞きたい。もちろん、あなたのお父さんやお母さんのことを含めての話です」
リーボゥディルは、このときやっと、自分の企てが成功したという確信を得た。それをより確かなものにするべく、彼は短く、はい、と答えた。




