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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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光の矢(2)


「どんな感じだい?」

「どう、って言われても、光子体(リーニア)の再生なんか初めてだからなあ」

 エネルギーポッドを前に、タケルヒノとボゥシューが話している。

 エネルギーポッドの中に浮かぶ情報核(リーンファニム)は、発見当初より輝きを増したものの、まだ自分の意志に沿った形を構成できるほどには回復していないらしく、回転楕円体の形をとりつつ、ぐねぐねと振動している。

「だいぶ元気になったんじゃないか?」

「時間あたりのエネルギー吸収量は増加しているから、まあ、最初よりはマシになってるんじゃないか?」

「話せるかな?」

「まだ無理だろう。それに念のためポッドのまわりに弱めのシールドを張ってある。それをはずさないと会話するのは無理だ」

「話せるぐらいまで回復できると思う?」

「さあねぇ」ボゥシューが首をひねる「ゴーガイヤの例もあるし、光子体(リーニア)がみんな意思疎通できるタイプかどうかもわからないしな」

「まあ、そりゃそうだが、何て言うかな、別に証拠とか裏付けとかは必要ないから、この光子体(リーニア)どう思う? 何でもいい、思ったこと、感想でいいよ」

「子供みたいだな」

「子供?」

「何度かシールドに当ってきたんで、怒ったらおとなしくなった」

「シールドはずさないと会話できない、って言ってなかった?」

「こっちが話すことは変調して供給エネルギー波にのせて送れるからな。向こうの言い分が聞けないから会話にはならないけど」

「じゃあ、それやって」

 いいよ、とボゥシューが答えて、エネルギーポッドの隣にあるパネルを操作した。

「もう、話せば向こうには通じる」

「こんにちは、聞こえますか?」

 光球の伸縮がぴたりとやんだ。しばらくすると小刻みに振動を始め、膨潤と明滅を繰り返した。

「あなたにエネルギーを送っている装置のせいで、あなたの話は聞くことができません」

 タケルヒノの言葉に、光球は明滅をやめた。

「もっとあなたが回復して、その装置から出られるようになったら、ゆっくりお話しましょう。僕の名前はタケルヒノといいます」

 タケルヒノの名を聞いた途端、光球は激しく明滅を繰り返し、輝きを増していく。

「エネルギーの吸収量が上がってるみたいだ」

 ボゥシューがパネルを見ながら確認している。

「もっとエネルギー供給量を増やせるかい?」

「できる。こんなもんかな?」

 ボゥシューのパネル操作に従って、光球――情報核(リーンファニム)は一定の形に収束していく。それは人間で言うと7、8歳ぐらいの子供のように見えた。

「シールド切って」

 その言葉に、ボゥシューは一瞬だけタケルヒノの顔を見たが、何も言わずにシールドのスイッチを切った。

「もう、君の声は聞こえるはずです。ゆっくりと話して」

「助けて」

 光子体(リーニア)の少年は言った。

「ボクのママとパパを助けて」

「わかった、助けよう」

 タケルヒノは言った。

「ママとパパを助けるには君の力が必要だ。早く元気になるんだ」

 光子体(リーニア)の少年の顔に安堵の表情が浮かんだ、と思うと、ぐにゃり、と溶けるように形態が崩れ、明滅する光球に戻った。

「あいかわらずの安請け合いだな」

 ボゥシューが呆れ顔で言う。

「自分でもそう思うよ」

 タケルヒノは笑った。

「もう逃げないだろうから、シールドは切ったままにしておくぞ」

「ああ、そうしてくれ。エネルギー量は多めに。そうだ、それから…」

 不意に思い出したようにタケルヒノが付け加えた。

「ジムドナルドはどこにいるか、知ってる?」

「さあ?」ボゥシューは首を傾けた「ミーテングルームのソファで昼寝でもしてるんじゃないか?」

「俺ならここにいるぞ」

 ジムドナルドが実験室の入り口から顔を出した。

「何か用か?」

「何しに来たんだよ」ボゥシューは遠慮ない「タケルヒノのストーカーでもしてんのか、気持ち悪いヤツだな」

「俺もタケルヒノ探してたんだよ」

 ジムドナルドは右手に持っていた丸めた紙の束をタケルヒノに投げた。

「パラレスケル=ゼルのタルトレーフェンとかいう奴からきた通信文、あんまり長いからプリントアウトしてきた。なかなかの名文だぞ、こんなもん書けるのはクズ中のクズだな」

「一足遅かったな」

 ジムドナルドから受け取った通信文に目も通さず、タケルヒノが言った。

「たったいま、こっちの光子体(リーニア)に味方することに決めたばかりだ。そのタルなんとか(丶丶丶丶丶丶)とかいう奴の言い分は後で読んでおくよ」

「そいつはいいな」ジムドナルドも同意した「俺も、プラズマシールド突っ切って、飛び込んでくるような無鉄砲な奴は大好きだ」

 ここでジムドナルドは先手を取ってボゥシューに話しかけてきた。

「やっぱり、みんなの意見も聞いたほうがいいと思うか?」

 ボゥシューはエネルギーポッドの環境調整の再設定に忙しく、顔も向けずに答えた。

「誰に聞いたって、そのタルなんとか(丶丶丶丶丶丶)とかいうヤツの言うこと聞こう、なんていうのはいないと思うぞ。そんなことより、この子の両親を助ける、ってタケルヒノが約束してしまったから、そっちのほうを考えてくれ」

「何だって?」ジムドナルドが素っ頓狂な声を上げた。「何だ、それ。凄い、俺好みの展開じゃないか。よーし、もう全力で助けに行こう。たぶん、その子の親だけじゃないぞ、もっといろいろごちゃごちゃ捕まってるんだ。よし、革命だ、革命。どう考えたって悪そうなのは、タルなんとか(丶丶丶丶丶丶)だな。よし、決めた。打倒タルなんとか(丶丶丶丶丶丶)、だ。いいぞ、いいぞ。そこの光子体(リーニア)は救世主だ。解放への尖兵、ヒーローだ。いけるっ、だんだんストーリーが出来てきたぞ…」

 タケルヒノは自分の決断を翻って後悔することはめったにないのだが、このときばかりは、ほんのちょっぴり泣きそうになった。

「気持ちはわかるけどな」

 みるみる沈んでいくタケルヒノの顔を見ながら、ボゥシューは慰めにもならない言葉をかけた。

アレ(丶丶)については」ボゥシューは、どんどん自分の世界にはまっていくアレ(丶丶)を、顎をしゃくって指した「もう運命だと思ってあきらめろ」


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