光の矢(1)
「で、パラレスケルに来たが、どうするつもりだ?」
ミーティングルームの片隅に置かれたソファ、ジムドナルドは腹ばいで寝そべりながら、右足に巻き付こうとするヒューリューリーを左足でいなしている。
「第一光子体の情報が欲しいんだが」
タケルヒノは浮かない顔だ。
「いくらパラレスケルと言っても、そのへんを飛んでいる光子体を捕まえて聞くわけにもいかないしなあ」
「ここは資源採掘できるほど大きな惑星もないし」
ジルフーコもあまり乗り気ではなさそうだ。
「資源については、ダーの立ち上げ機で十分補充できたから、ここで探す必要はないんだよね」
「ダーのほうはどうですか、道はありそう?」
「探索中です」
タケルヒノの問いにダーは答えた。
「既知の道については、わたしが抜けられるものでないことは確認しています。現在、未知の胞宇宙への道も含めて探索中ですが、しばらく時間がかかります」
「うーん」タケルヒノは大きく伸びをした「ダーの探索が終わったら、ダーの行ける所か、こっちの行きたい所に移動する、ってことで、じっとしてるのが無難かな」
「いいな、それ」
「つまらんぞ、それは」
同時に発言したビルワンジルとジムドナルドだが、瞬時に分が悪いと悟ったジムドナルドが笑いながらつけたした。
「退屈なのは、いまにはじまったことじゃないからな、ま、俺は紐と遊んでるから、あとは適当にやってくれ」
ジムドナルドはそう言ってヒューリューリーを蹴飛ばしたのだが、ヒューリューリーは難なくかわした。
「おかしいなあ」
さっきからジルフーコがしきりに首をひねっている。
「どうかした?」
タケルヒノに聞かれたジルフーコは、コンソールに宇宙船のモデルを表示する。
「このビオトープゾーンの上あたりなんだけど、一瞬、プラズマシールドが切られた形跡がある。シールド自体はすぐ復旧してるんだけどね。調べても外壁には以上がないし、隕石がぶつかったとかいうことでもなさそうだ」
「装置の故障ではないんだな?」
「シールド発生装置は問題なく作動してるし、その後もすぐ穴は塞がってるから、強力なエネルギーがぶち当たったとしか思えないんだが」
「攻撃かい?」
「うーん、何とも。それで、ビオトープゾーンの中に、かすかだがエネルギー反応がある」
「ふむ」
タケルヒノと目があったビルワンジルは、無言で槍をとって、くるりと一回転させた。
「じゃあ、僕とビルワンジルで見てくるから、向こうについたら位置を教えてくれ」
「わかった」
ヒューリューリーはジムドナルドの足にまとわりつくのをやめて、頭の方にまわった。
「行かなくていいんですか?」ヒューリューリーは体をひゅんひゅん回した「何か起きたみたいですよ」
「俺の出番じゃないよ」ジムドナルドは片目をつぶった「そもそも探しものなんか得意じゃないしな。お前、暇なら一緒に行ってみれば」
「そうですね。行ってみます」
ヒューリューリーが、するすると2人の後を追う。
やっと邪魔が入らなくなったジムドナルドは、目を閉じて昼寝をはじめた。
ビオトープゾーンに出た3人は、小川の端にそって歩き出した。
「何を探せばいいんですか?」
くねるヒューリューリーに笑いながらタケルヒノが答える。
「それが、よくわからないんですよ。ジルフーコは、このあたりだって言うんだけどね」
「見当もつかないんですか?」
「エネルギー体みたいだから、光ってるんじゃないかなあ」
「光ってるんですか?」
「いや、微弱らしいから、あんまり光ってないかもしれない」
「…困りましたね」
「そうですね」
小川のせせらぎに照明が反射して、きらきらとはぜる。こんな中でかすかに光るものを探すのは難しい。
「ジルフーコに言って、照明を落としてもらうか」
「真っ暗じゃ困るが、もう少し暗いほうが良さそうだな。あ、ちょっと待て」
ビルワンジルはわずかに揺れる草むらに分け入ると、声を上げた。
「何だ。ザワディか。どうしたうずくまって? 具合でも悪いのか?」
ザワディは前足をそろえ、いわゆるお座りの姿勢で、鼻をフンフンと突き出している。
タケルヒノはザワディの鼻先に、淡い光を放つ小さなかけらを見つけた。
「ザワディ、偉いぞ。見つけてくれたんだな」
タケルヒノはかけらを拾い上げた。
「何ですか? それは?」
「情報核ですよ」
タケルヒノは、ヒューリューリーに言った。
「見るのは初めてですか? 僕はこれで2度めだけど。このままじゃ、話を聞くわけにもいかないから、再生してみるしかないんだろうな」
「再生、ですか?」
「エネルギーが極端に不足している状態の光子体なんです。プラズマシールドを突破するのにほとんどの力を使ってしまったんでしょう」
「再生したりして、大丈夫なんですか?」
ヒューリューリーの体の回転はぶれぶれで、ビルワンジルから見ても、かなり怯えている様子がわかる。
「怖い人じゃないといいですね」
タケルヒノは笑ったが、ヒューリューリーは返事はしなかった。
面白いヤツラだな、と、ビルワンジルはあらためて思った。




