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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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閉塞空間(5)

 

「タケルヒノ、どこにいるか知らないか?」

「知らない」

 ジムドナルドに聞かれたボゥシューは、眉根をつりあげて聞き返した。

「何故、ワタシに聞く?」

「いや、最近、タケルヒノに粘着してるみたいだから、居場所知ってるのかと思って…」

「粘着などしてないッ、粘着してるのはオマエだろーが」

「もちろん俺は粘着してる。なあ、ストーカー同士、思いのたけを共有して慰めあおう」

「オマエ、と一緒にするなーッ、ワタシはストーカーではないぞ。ここにいる男、四人並べていちばん上等なのがタケルヒノだから、優先的(丶丶丶)、に話しかけてるだけだ」

「おやま、意外と合理的なんだな」

「タケルヒノに何の用だ?」

「ん?」

「タケルヒノに何の用があるのかと聞いている」

「ああ、宇宙遊泳したいって頼んだんだよ。それで…」

「そんなもの一人で勝手にしろ」

「無理だって、船外作業服とか用意するのめんどくさいじゃない。俺、オーダーシステム、とか、よくわからないし…」

「情けないヤツだ」

「俺、最近、背が伸びたんだよねー」

「何言ってるんだ? 意味がわからないぞ」

「いや、タケルヒノが船外宇宙服作ってくれてるんだけど、プロファイルデータで作られたら、小ちゃくなっちゃうじゃない? で、まぁ、その辺直して貰おうかなー、とか…」

「宇宙遊泳か…」

「え?」

「面白そうだな。宇宙遊泳…、だけど…」

 ボゥシューは考え込んだ。宇宙遊泳はボゥシューが真っ先にやりたいことだった、ハズだ。けど、何かの理由でやめたのだ。何の理由だったか思い出せないが…。

「ワタシも宇宙遊泳したい」ボゥシューは言った。言葉に出すとますますその気になってきた。宇宙遊泳したい「ワタシも行くぞ」

「いいね、いいねぇ」ジムドナルドは上機嫌だ「じゃあ、タケルヒノを探しに行こう、一緒に行こう」

「よし、タケルヒノを探しに行こう」

 ボゥシューは言いながら、タケルヒノのことを考えた。タケルヒノが大丈夫だというのなら、宇宙遊泳も大丈夫なんだろう。以前、やめようと思った時は、きっと何か勘違いしていたんだ。きっと、そうだ。

 

 ボゥシューは声が大きい。

 それで、ジルフーコが困るということはないハズなのだが。

 いや、実際問題として、困った(丶丶丶)わけでは全然ない。

 ないのだが…

 ジルフーコの個室(コンパートメント)はサイカーラクラの隣だ。サイカーラクラは起居整然としていて、普段なら、本当にいるのかどうかわからないくらいに生活音が聞こえてこない。

 普段なら、の話である。昨日は違った。

 サイカーラクラの部屋で女子三人の秘密会談(丶丶丶丶)がもたれたのだが、ボゥシューの声がだだ漏れだったわけで、他の二人の話を聞かずとも、ジルフーコにはおおよそ(丶丶丶丶)のことがわかってしまった、ということである。

 ジルフーコにとって秘密会談(丶丶丶丶)の主題そのものは、わりとどうでもよかった。

 ただ、ひとつだけ気になったことがある。

「おはよう、サイカーラクラ」

「おはようございます、ジルフーコ」

 サイカーラクラの最近のお気に入りは、食堂の大画面コンソールだ。もともとミィーティングルームとして設計されたのだろう、プレゼンテーション用のコンソール群と思われる、数基のコンソールが備えつけられている。全体提示用ではなく、個人操作用のをサイカーラクラは使っている。個室のものより画面が大きいので、見やすいのだそうだ。タケルヒノも同じようことを言っていた。

 もともとはミィーティングルームだったと思われるが、食事するのに使われるようになったので、皆、食堂、と呼んでいる。

 サイカーラクラは、コンソールに没入している。サイユルとベルガーの星間戦争の話だった。

「それ、本当の話だと思う?」

「さあ?」ジルフーコの問いにサイカーラクラは首を傾けた「地球の古い説話にしても、それがただの物語か本当の歴史なのかは判別しにくいものもありますから」

「そういうの見分けるのって、ほんとは、ジムドナルドが得意なんだろうな」

「でしょうね、でも、彼としてはセルレス(丶丶丶丶)を超えるまでは、そういう話はしたくないらしいです。見た目はともかく、論文を読んだ限りだと、彼は揺るぎなき実証主義者です」

「彼の論文読んだの?」

「読みましたよ。もちろん、あなたの論文も。私は本だったらなんでも読むんです」

 情報キューブには地球の情報もすべて入っている。それはジルフーコも知っていた。ジャパニメーションも過去の作品ならみんなあるのだ。新作が無理なのは残念至極だが。

「やあ、タケルヒノ」

 ジルフーコの声にサイカーラクラが、ぴくっ、と反応し、同時にフェースガードがぴしゃりと閉まる。

「…って、あれ、違う。人じゃないや、ケミコさんだ」

 シャッターが開いて、何事もなかったかのようにコンソールに目を走らせるサイカーラクラ、しかし、ジルフーコはその表情にほんのわずかな失望が浮かんだのを見逃さなかった。

――すごいや。ナルカサギミヤみたい。インド人にも日本人みたいな女の子っているんだ。

 ジルフーコはドキドキしながらサイカーラクラを見つめている。ナルカサギミヤは「Cute!」という日本アニメの主人公で、ようするにジルフーコはいろいろと間違っている。

 間違っている。

 間違っているのだが、それを正して真実を受け入れる日は、ジルフーコには永遠に来そうにない。

 

 トマト畑の草取りを終えたイリナイワノフは、あてもなく草原を歩いている。

 イリナイワノフは最近、第2区画で過ごすことが多くなった。

 最初の内こそ、皆と同じように情報キューブの中身に釘付けになったが、それも薄れた。もちろん、いろいろ試してはみるが、他のみんなのようにはできない気がする。

 所詮、宇宙船(ふね)に選ばれたといっても、みんながみんな天才というわけではないのだ。

 それに…

「よう、草取りは終わりかい」

 草の上に寝転んでいたビルワンジルが声をかけた。

「終わったよ」イリナイワノフはビルワンジルの傍らによると、しゃがんで腰をおろした「畑、ちっちゃいからね。すぐ終わる」

「ビルワンジルは何してたの?」

「昼寝」

「昼寝かぁ」イリナイワノフは頭の上で手を組んで座ったまま背伸びした「いいなぁ、昼寝。あたしも昼寝しよっかなー」

「いろいろ気苦労も多いだろうしな。ボゥシューとか、サイカーラクラとか」ビルワンジルは頭を少し起こすとイリナイワノフに目を向けた「あと、タケルヒノとか」

「やだ、もうバレてんの?」ボゥシューは声大きいからな―、イリナイワノフは屈託ない「いらないのか、って言われると、まあ、そんなわけもないから、じゃあ、いるのかって言われると、それはそれで」

「悩ましいよな」

「まあねぇ」

 イリナイワノフはビルワンジルの横に寝転んだ。

「あたし、ウソついてんだよね」

「ウソ?」

「プロフィールね。みんなに渡されたヤツ。あれに本当のこと書かないで、って頼んだ。それがあたしの宇宙船(ふね)にのる条件のひとつ」

「へぇ」

「でも、来てみたら変人ばっかりなんだもん。わざわざ隠さなくても良かったなー、って」

「オレは変人じゃないぞ」

「でも、ケニア十種競技の星なんでしょ」

未来の(丶丶丶)、が頭につくんだ。まあ、体力選考なのは間違いないだろうな」

「ジルフーコやタケルヒノと同じくらいオーダーシステム使いこなしてるじゃないの」

「ありゃ、ジムドナルドが特別に下手クソなだけだし」

「ボゥシューやサイカーラクラに比べたら、あたし、ほんとに普通だわ」

 ビルワンジルは肯定も否定もしなかった。どちらの立場をとっても、面倒なことになるのは火を見るより明らかだ。

 

 

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