表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方剣雷録~Another I~  作者: ksr123
第一章 度重なる再会と死闘
4/12

第四話 ~分かれる生死~

「急げ、早くっ!」


魔理沙は全速力で魔法の森へ向かい、自分の家の前に降り立った。

大急ぎで家の中に運び、手当を始めた。


傷口を消毒し、薬を塗り、包帯を巻く。

魔理沙は、親友を救うのに必死だった。


「ふう、取り敢えずこんな感じでいいか・・・」


粗方手当が終わった頃、玄関の戸がノックされる。


「はーい、鍵は掛かってないぜー!」


そう叫ぶと、玄関の戸が開き、一人の少女が入ってくる。その周りには、数体の人形が浮いていた。


「よう、アリス。どうした?こんな時間に」


「今晩は、魔理沙。さっきからこっちの方で騒ぎがあったみたいだけど・・・」


「ああ、迷惑な妖怪退治だぜ。なぜだか異様に数が多くてなぁ・・・。今、怪我人の治療をしてたんだ」


「妖怪?・・・ってすごい怪我じゃない!?大丈夫なの?この子」


「あんま大丈夫じゃないな・・・」


全身を包帯で巻かれベッドに寝かされているエルミーの姿を見て、魔理沙が答える。


「早く医者に見せた方がいいんじゃない?」


「何、こんなんじゃコイツは死なないぜ。そういう能力なんだ」


「知り合いなの?」


「ああ、7年ぶりの再会だ」


7年?と疑問の表情を浮かべるアリスに、魔理沙はエルミーのことを説明してやる。

説明を聞きながら、エルミーを見るアリスの表情が少しずつ曇っていく。


「あれ?おかしいわね・・・」


「ん?どうした?」


「エルミーの魂に違和感があって・・・ちょっと見せて貰っていい?」


「ああいいぜ」


そう言ってアリスがエルミーに軽く触れる。それだけでアリスの表情が激変した。


「魔理沙、この子・・・!」


「おい、どうしたアリス?」


「大変だわ、この子下手したら死ぬわよ!」


「何だって!?どうして!?」


落ち着いて聞いて、とアリスは深呼吸してから魔理沙に話し始める。


「今、エルミーには2つの魂が宿っているわ」


「2つの魂?魂は1つじゃないのか?」


「だから、それが異常だって言ってるの。魂が2つある。つまり、エルミーには2人分の命が宿っているわ」


それからのアリスの話を聞いて、魔理沙は愕然とし、やり場のない怒りをおぼえた。


エルミーには、2人分の命が宿っている。逆に言えば、2つの命で1つの体を共有しているのだ。

そんな事をすれば、体力的な消耗はともかく、精神面、魂などの面でも消耗が激しくなる。

そうすれば、普通に生活するだけでも支障が出る。


そして、最も恐るべきことは、他にある。


物体に2つ以上の命が宿っている場合、お互いの足並みが完璧に揃っていればいい。だが、そうでない場合、ふとした弾みで、お互いを滅ぼし合うことになる。そんな事になれば、どんな生物であろうと生きていられる訳が無い。


解決策がない訳ではない。どちらか片方の魂を引き剥がせれば、肉体は安定し、1人の人間として生きていけるだろう。だが、今回は普通とは圧倒的に違う面がある。


2つの命が、お互いに相互し合って生きている。簡単に言えば、2人で1人なのだ。

どちらか片方が離れようとすると、もう片方もそれについていく。

無理やり引き剥がすと、もう1人に依存しすぎた命は自立できずに、死ぬ。


それを聞いた魔理沙は、ほぼ無意識のうちに叫んでいた。


「ふざけるな!!」


魔理沙は理不尽な現実に激怒していた。


「魔理沙、辛いのは分かるわ。でも、これが事実なの」


「事実とかそんな事は私はどうでもいいんだよ!けど、エルミーはどうなんだよ!そんな事言われて、はいそうですかなんて言えると思うか!?」


「・・・ごめんなさい」


アリスに謝られて、魔理沙は一瞬たじろぐ。そして冷静になる。


「っ・・・。・・・お前は悪くないんだ。どうしようもない。どうしようもないんだ。でも・・・!」


「もういいわ、魔理沙」


アリスが止める。だが魔理沙は止まらない。


「あいつは、私の事を親友だと言ってくれた!私もそう思ってた!なのに、なのにお前は私に綺麗さっぱり諦めろって言うのか!?忘れろって言うのかよ!?お前は、エルミーを知らないからそんなことが平気で言えるんだろ!」


「違う!そんなんじゃない!」


アリスの必死の否定も、魔理沙には届かない。


「それにエルミーだって、7年もかけてようやく帰ってきたんだぞ!?なのに帰ってくるなり妖怪の群れに襲われて大怪我して、そして目が覚めたらお前は死ぬだって!?こんな酷い話があるかよ!?―――――私は、あいつの事が可哀想なんだよ!」」


「魔理沙、もう――――――!」


「それに、それに!!」


「もうやめてっ!」


「!」


今までにない悲痛な叫び声。驚いてアリスの顔を見ると、その目には涙が溢れていた。


「もうやめて・・・私だって、こんな事認められないわよ・・・」


そう言ってアリスは泣きじゃくる。そう思ったら、魔理沙も泣いていた。


「・・・悪い」


「ううん、もういいのよ。魔理沙が辛いのは私にもわかる。だから・・・」


「んあ~、なんか騒がしいわねぇ。」


場違いな腑抜けた声。包帯だらけの物体がベッドからむくりと起き上がる。


「エルミー。目が覚めたのか?」


「ええ、おかげさまで・・・でそっちは?」


とアリスを見て言う。


「あ、うん。初めまして。アリス・マーガトロイドよ」


「そう、初めまして私はエルミー。ところであんたら、泣いてた?」


思わずギクッとする。一体何時から起きていたのだろうか。話を聞かれていないか不安になる。


「ええ。ちょっと下らない事で喧嘩をしてて。ね?魔理沙?」


「ん?あ、ああ。そうだぜ」


「そう?ならいいんだけど」


そう言って再び横になる。普段と変わらない様子に取り敢えず安堵していると、アリスが言った。


「じゃあ、そろそろ帰るわね」


「ああ、じゃあな」


「また、明日」


アリスを見送ってから、魔理沙は自分の部屋に戻り、エルミーでベッドが埋まっているので部屋の隅で横になった。


「お休み、エルミー」


そして魔理沙は深い眠りについた。


◆◇◆◇◆◇



「嫌・・・まだ死にたくないよ・・・」


真っ暗な部屋の中、エルミーの声がこだまする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ