第二話 ~里の一幕~
場所は変わって、人里。
エルミーは甘味処で団子を食べていた。
「ん~~、おいし。」
自然と笑みが零れる。
「久しぶりだもんね。ここのお団子がまた美味しくて♫」
などと独り言を呟いていると、目の前を一人の少女が通り過ぎていった。
「あれ、あの娘・・・」
と呟くや否や、勘定も忘れて猛ダッシュで後ろから近づき・・・
「やっほー」
「ひゃあっ!」
いきなり後ろから抱きつく。少女の方は驚いて悲鳴を上げている。
「ひっさしぶりー」
「だ、誰ですか貴女!」
「えー、忘れちゃったの?」
「とりあえず離れて!」
「はいはい」
と言って背中から離れる。
「全く・・・いきなり何ですか・・・ってああああああっ!」
少女はエルミーの顔を見ると驚いたように叫び声を上げる。
「エ、エルミー!?」
「やっと思い出した?あっきゅん」
目の前の少女は稗田阿求。人里のちょっとした有力家である。
「どうしたのエル!8年間も心配してたんですよ!?」
「7年間ね」
エルミーと阿求は幼い頃からの友人である。エルミーのほうがやや年上ではあるが。
ちなみに、エルミーは阿求を「あっきゅん」、阿求はエルミーを「エル」と呼ぶ。
「まったくもう・・・相変わらずですね。エルは・・・。」
「ま、お互い様だね。その点に関しては」
実に7年ぶりの再会。それを2人は手を取り合って喜び合っていた。
◆◇◆◇◆◇
「ふうん、外の世界に、ですか。」
「そ、しかもあのスキマも助けてくれないし・・・」
「それは災難でしたね。」
2人は稗田亭にて談笑を楽しんでいた。
「それでね、外の世界で―――――――――」
「まあ、そんなことが?―――――――――」
そうして話し込んでゆくうちに、空は夕日色に染まりつつあった。
「あー、なんだかお腹が減ってきたわ。」
「よかったらうちで食べていきますか?」
「ほんと?ありがと!」
そう言って、エルミーは飛び跳ねて喜ぶ。
ほんとに相変わらずですね、と阿求は苦笑しながら、女中に夕食の準備を言いつけた。
そして、夕食の最中、何やら外が騒がしい、と感じた阿求は
「さっきからなんだか外が騒がしくないですか?」
「ん?言われてみれば確かに―――――――!」
と言いかけたその瞬間、玄関に1人の男が飛び込んできて、
「た、大変だあっ!」
と叫ぶ。阿求は箸を置き、急いで男のもとへ駆けつける。エルミーもあとを追う。
「どうされましたか?」
「ま、魔法の森の方から化物が押し寄せてきやがったぁ!」
「なんですって!?」
阿求は裸足のまま外へ出る。そこで彼女が見たのは―――――――
「何て数・・・」
何十、いや、何百とも言わん数の妖怪の姿だった。
しかも、目を凝らしてみれば魔法の森の方からもさらに多くの妖怪どもが押し寄せてくる。
「怪我人は!?」
「安全なところに避難しております。阿求殿も早く!」
「分かりました。あなたは早く巫女に連絡を!」
「もう向かわせました。しかし、ここからじゃ距離がありすぎて――――――」
「その心配はないよ」
「「!?」」
二人はそろってエルミーを見る。
「まさか、エル、あなた・・・」
「ここは私に任せておいて。2人は早く逃げな!」
そう言うや否や、エルミーは妖怪の群れの中に飛び込んだ。
「無茶だ!人間が妖怪なんかに――――――」
「いえ、大丈夫です」
「え?」
一体エルミーがどういうつもりなのか、阿求にも判らなかった。
でも、1つだけわかる、と阿求は心の中で呟いた。
―――エルは何も考えずに行動する人じゃない、なにか考えがある―――
「とにかく逃げましょう!」
「は、はい!」
でも阿求は知らなかった。エルミーが人間には秘密にしていた「能力」の事を―――――――