第一話 ~帰郷~
ああ、何年ぶりだろうか。
ようやく帰って来れた。私の幻想郷に。
「・・・懐かしいわね。」
誰かが聞いている訳でもないのに、何となくそう言ってみる。
ここは妖怪の山。その山頂に彼女は立っていた。
「私は人間だから、もっと時間を大切にしないとね。・・・って何を言ってるんだか」
「あやややや、これは珍しい方が来たものですね。」
「?」
声のした方を振り向くと、そこには一眼レフを携えた天狗の姿。
「お久しぶりです。私です。射命丸ですよ。」
「射命丸・・・って文!?うわ、久しぶりじゃない!」
「じつに7年ぶりですかねえ・・・まあ妖怪からしてみれば大した時間じゃないですけどね。おっと、あなたも同じ様なもんでしたね。っていうか7年間何をしてたんですか?いきなりいなくなって心配したんですよ?」
「ああ、実はね、神隠しにあったの。」
「え?」
神隠し、というよりは、その逆だろう、と彼女は思っていた。
ある日、突然外界に放り出されたのだ。
外界は奇妙な場所だった。機械?と呼ばれるものが街中を埋め尽くし、
殆どの人間がそれに依存した生活を送っていた。
エルミーはその生活に慣れることはできなかった。と言うより慣れたくなかった。
機会に依存した生活。そんな生活を送る人間は、それを失った途端、破滅するのだろう。
「だったら、例の妖怪の賢者にでも助けてもらえば良かったんじゃないですか?」
「いや、ほら私人間だし。」
あの妖怪・・・八雲紫は人間が外に出ても別になんとも思わない。例外もいるが・・・。
「はあ、そうでしたか・・・。さぞ大変でしたでしょうね・・・。」
「全くよ。今度会ったら文句言ってやるんだから!」
「あはは。そうだ、なんなら上の方にも顔を出しに行ってはどうですか?天魔様も喜ばれると思いますよ?」
「いや、遠慮しとくわ。」
「それはまたどうして?」
「んーーー、まあとにかく、私が帰ったことは秘密にしといて。私は人里あたりでご厄介になるから。」
「えー・・・なんだか要領を得ませんがまあいいでしょう。あなたの頼みを断るわけにはいきませんから。」
「ありがと。じゃあね。」
そう言うと彼女は消えた。本当に一瞬で消えたが、文は驚かなかった。彼女の能力を知っていたからだ。
「相変わらずですねえ。エルミーさんは。」
何気ない旧友との再会。
穏やかな様に見えて、この時、既にその異変は始まっていた。