03 入門書(全1500ページ)
そんなこんなで”彼女”から特訓を受け続けている私である。特訓といっても甘い言葉を吐く練習なのだからなんかしまりが悪い。けれどもこれができないことには次のステップにはあがれないのだ。そして私は一度もすらすらといえたためしがない。
「ほんとにこんな台詞言わなきゃだめなんですかぁー他に方法ないんですかぁー」
課題図書である甘い台詞大全(全1500ページ)をパタンと閉じる。1500ページとかイカレテやがる。その1ページ1ページに違う言葉が書かれそれを使うべきシチュエーションと解説がこと細かくかかれている。吸血鬼の入門書なのだという。
私が課題図書を読んでいる間”彼女”はいつも書類に目を通しててはその書類になにやら書いたりひどいときには無表情で破いてゴミ箱に捨ててしまったりとどうやら仕事をしていた。そんな”彼女”の姿をみるとやっぱり女には見えない。なんどもなんども女だと強調してくるのでこの世界では男と女の姿が逆なのだとか思った時期があったが”彼女”にきいてみるとそんなことはないのだという。私の認識は間違っていないらしい。でも”彼女”は女なのだという。意味わからん。
「あることにはあるわね」
「え!」
なんだなんだこんな甘い台詞いえなくったって方法あるんじゃん!と”彼女”のほうに振り返った瞬間。”彼女”のやけに整いすぎた顔が目の前にあって気がついたらその唇が触れていた。
『従え』
触れあっていた唇を離し”彼女”は耳元でただ一言その低音ボイスで囁いた。
「ななななななな」
「できるの?」
唇に手をやり見せ付けるようにその長い指でぬぐう”彼女”から漂うエロスの香りはおこちゃまな私には刺激が強すぎた。なんなのなんなわけ!ここここんなこと破廉恥!
「む、むりっ!というかレベル上がってるぅぅぅぅぅぅ!!!というか私のファーストキスがこんなオカマに奪われたぁ!」
「別に甘い台詞をいえなくてもかまわないわよ。ただ一番初心者むけだと思ったからね。とにかく相手に性的な興奮を少しでも与えられたらいいのだから。そうすればあとは噛み付いて終わりよ。それを100回やればいいだけの話なんだからさっさとできるようになりなさいよねぇ……で?だれがオカマだってぇ?」
「ひ、ひぃぃぃおおおお許しを!!」
この日もまた鉄拳制裁を食らってしまうのであった。ほんと頭割れる今度こそ割れる!
「わかったら甘い台詞大全の音読をはじめなさい!いつまでたっても奴隷なんてつくれないわよ!」
「ううう、わかりましたよ」