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第6話

 そして翌朝、僕はまたいつもと同じ時間に目が覚めた。今日も幼稚園は休みなのにも関わらず。そして何より夜更かしをしたのに、眠気が一切なかったのだ。そしてカーテンを開けて、一階へ朝ごはんを食べにいった。

「おはよう。」

「おはよう。」

この日もパパとママはもう起きていた。そして僕はこう言った。

「ねぇ、昨夜も空に行ったんだ。」

「おいおい、寝ぼけてるんじゃないか?」

「そうみたいね。」

「本当だもん!」

僕は信じてもらえないことが悔しかった。


 「あ、そうだパパ…」

「なんだ?」

「ギターを教えて欲しいんだ。」

「お、いいよ。」

そう言うとパパはギターを持ってきてくれた。

「まずはコードからだな…」

「…」

僕にはコードとは何かわからなかった。

「それじゃあ、まずここを中指で…」

「こう?」

「そうそう。そしたらここを薬指で…」

「こう?」

「そうそう。今度はここを人差し指で…」

「これでいいの?」

「一回弾いてごらん。」

ジョロリーン。音はちゃんと鳴らなかった。

「難しいよ、パパ。」

「あはは。初めはそんなもんだよ。」

「もう一回…と。」

ジョロリーン。さっきよりはしっかりと音が鳴った気がした。

「お、さっきよりは上手く押さえられてるな。」

「うん。」

「その調子、その調子!」

「これはなんていうコードなの?」

「これはEっていうコードだよ。」

「Eかぁ。」

「ミとソのシャープとシの音だよ。」

「ふーん。もう一回!」

ジョロリーン。下手くそだけど、少しは音が鳴ったのがわかった。

「お、なかなか上手いじゃないか。」

「少し手が疲れたよ。」

「初めは仕方ないよ。」

「そっか…でも僕頑張る。」

「急にどうした?」

「何でもないよ。」

「そうか。」

僕は三日月に聴かせるなんてとても言えなかった。


 「パパ、他のコードも教えて。」

「それじゃあここを人差し指で…」

「こう?」

「そうそう。それでここを中指で…」

「こう?」

「そうそう。あとここを薬指で…」

「これでいいの?」

僕は教わったコードを弾いてみた。ジョロリーン。上手く音は鳴らなかった。

「あはは。初めだからそんなもんだよ。」

「もう!これでも頑張ってるんだから。」

「ごめん、ごめん。」

ジョロリーン。また僕は弾いた。

「お、さっきよりは上手だなぁ。」

「これはなんていうコード?」

「それはAっていうコードで、ラとドのシャープとミの音だよ。」

「ちょっとパパが弾いてみて。」

「よし!」

そう言うとパパはEとAのコードを弾いて聴かせてくれた。

「やっぱりパパのが上手だね。」

「それはそうだよ。パパは何年もやってるからな。」

「すぐにはパパみたいには弾けないよね?」

「もちろんだよ。そんなにすぐに弾けるなら苦労は要らないからな。」

少し得意気にパパは言った。その日は僕はひたすらEとAのコードの練習をした。手が痛くなっても、指が痛くなっても、それでも三日月に聴かせるためにひたすら頑張っていた。


 夕方になると、空は曇り出してきた。今にも雨が降り出しそうなそんな天気だった。

「あら、曇ってきたわね。」

「え!」

「どうしたの?」

「…ううん、何でもない。」

「洗濯物を取り込まなくちゃ。」

今日は三日月に会えないかと思うと、僕は残念な気持ちでいっぱいだった。それでもいつものように会う準備はしておこうと思った。


 その夜、いつものようにパパが眠ったことを確認するとギターを持ち出した。そして自分の部屋に戻り、時計の電池を外して、ベランダへ出た。

 しかし、その日は曇っていたせいか三日月は見えなかった。そして僕を呼ぶ声も聞こえなかった。それから僕はがっかりして、パパのギターを戻し眠ることにした。

「あーぁ、今日は会えなかったな。」

そう独り言を言って僕は眠った。


 翌朝、僕は目覚まし時計の音で目を覚ました。今日は幼稚園の日だった。パパとお姉ちゃんはすでに、それぞれ会社と学校へ行っていた。僕は朝ごはんを食べると、ママと幼稚園へ行った。

「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」

「はい。ではお預かりしますね。」

そう言うと僕はまた絵本を読み始めた。幼稚園の絵本は「月夜に恋ひとつ」に比べたらたいしたことはなかった。それでも絵本が好きな僕は友達と遊ぶことより絵本を読むことを選んだ。すると先生がこう言った。

「天気も良いし、みんな外で遊ぼう!」

「はーい。」

みんなは素直に外へ出て遊んでいた。僕も渋々と外で遊ぶことにした。この時、僕は夜まで晴れているといいなと思っていた。そしたらまた三日月と会えると思ったからだ。そして僕は望くんと遊ぶことにした。

 

 「望くん!一緒に遊ぼうよ。」

「いいよ。またブランコで遊ぼう。」

「うん。」

そう言うと僕と望くんはブランコをこいだ。

「ねぇ、奈音くん…」

「なぁに?」

「まだお月様と会ってるの?」

「うん。まだ二回しか会ってないけど。」

「そうなんだ。」

「望くんは信じてくれるの?」

「もちろんだよ。」

「本当に?」

「うん。奈音くんは嘘つきじゃないもんね。」

「うん!」

半信半疑だった望くんが僕の話を信じてくれて嬉しかった。

「それでどうすれば会えるの?」

「まずね、パパのギターをこっそり持ち出すんだ。」

「それで?」

「時計の電池を外してね、時間を止めるんだ。」

「それから?」

「ベランダへ出る…」

「それだけ?」

「うん。」

「うちにはギターなんてないから僕は会えないかも…」

「そっか…今度うちに泊まりに来ない?」

「いいの?」

「うん。一緒にお月様に会いに行こうよ。」

「ありがとう!」

「今日にする?」

「え?大丈夫かなぁ…」

「帰りにママに聞いてみよう。」

「うん。」

そんな会話をしているうちに帰りの時間になった。


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