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第4話

気付くと朝だった。ママの声で僕は目を覚ました。

「奈音!起きる時間よ。」

「…うん…」

昨夜、眠れなかったせいか、僕はすごく眠かった。

「早く支度しなさい!」

「はーい。」

そして僕は支度をした。それから朝ごはんを食べに一階へ降りていった。もうすでにパパもお姉ちゃんも朝ごはんを食べていた。

「奈音、寝坊?」

お姉ちゃんが言った。

「うん。」

「ずっと絵本を読んでいたのか?」

「うん。」

「夜更かしはだめだぞ。」

「あのね、僕ね、昨夜三日月と会ってたんだ。」

「そんな訳ないじゃない。」

お姉ちゃんはそう言った。

「まだ寝ぼけてるだけだよ、純子。」

パパはそう言った。

「寝ぼけてないよ。」

僕はそう言った。

「こらこら、喧嘩はやめなさい。」

パパがそう言うと喧嘩は止まった。


 そうこう話しているうちに時間は過ぎパパは会社へ、お姉ちゃんは学校へ行った。

そして僕も幼稚園に行く時間が来た。

「奈音、そろそろ行くわよ。」

「はーい。」

そう言うと僕とママは幼稚園へ向かった。その途中に昨夜の出来事を話した。

「ねぇ、ママ、パパには内緒にしてくれる?」

「なぁに?」

「昨夜の話なんだけど…」

「夜更かしの話ね。」

「うん…パパが寝てたからギターを持ち出したんだ。」

「パパが知ったら怒るわよ。」

「だから内緒にして欲しいんだ。」

「わかったわ。それで?」

「カーテンを開けたら三日月が出てたんだよ。」

「綺麗だった?」

「うん。すごくね。」

「でもどうしてギターを持ち出したりしたの?」

「昨日買ってもらった絵本に出てきたから。」

「それで?」

「ベランダに出たんだ。」

「そう…」

「そしたら僕は空の上にいたんだ。」

「そうなの…」

「うん。それでね、僕ね、三日月と手を繋いだんだ。青色の三日月だったんだよ。」

「そう…」

「ねぇ、僕が幼稚園に行ってる時に絵本を読んでみて。」

「わかったわ。」

「約束だよ?」

「うん。」

ママはきっと僕が夢を見ていると思ったのだろう。でも確かに僕には三日月の温もりを感じることが出来た。そして幼稚園へ着いた。


 「先生、今日もお願いしますね。」

「はい。」

「あの…実は…」

「どうしましたか?」

「昨日、奈音に新しい絵本を買ってあげたんです。」

「いいですね。」

「それが…」

「どうしましたか?」

「その絵本のようになったと言うんです。」

「素敵な話じゃないですか!」

「それが空へ行ったと言うんです…」

「空へ?」

「はい。恐らく夢だと思うのですが…」

「きっと夢ですよ。」

「そうですよね…」

「奈音くん、しっかり見ておくのでご安心ください。」

「はい。ありがとうございます。それでは失礼します…」


 そう言うとママは家へ帰っていった。そして僕は仲良しの望くんに昨夜の話をした。

「望くん、昨夜…」

「どうしたの?」

「僕ね、空の上で三日月と話してたんだ。」

「え?」

「新しく買ってもらった絵本の中に行きたくて、パパのギターを持ち出して、時計の電池を外して、部屋のカーテンを開けたんだ。」

「それで?」

「そしたら綺麗で青い三日月が出てたんだ。」

「その三日月と話してたの?」

「うん。手も繋いだよ。」

「本当に?」

望くんは僕の話を半信半疑で聞いていたようだった。パパもママもお姉ちゃんも疑っている今、仲良しの望くんだけには信じてもらいたかったのだ。しかし、信じてくれる人など誰もいないことに僕はがっかりした。ただ僕の左手にはまだ三日月の右手の温もりが残っていた。


 それから夕方になり、ママが迎えに来た。

「奈音、お迎えに来たわよ。」

「ママ!」

「先生、それでは失礼します。」

「はい。お気を付けて。」

そう言うと僕とママは家へ帰っていった。その途中にこんな会話をした。

「ねぇ、ママ。新しい絵本は読んでくれた?」

「読んだよ。」

「すごく良い話でしょ?」

「そうね。」

「僕の読んだ中で一番好きな絵本だよ。」

「そうね。不思議な話だけど素敵な絵本よね。」

「うん。」

「でも夜更かしはだめよ。」

「…はい…」

今日も三日月に会いに行こうと思っていた僕は嘘をついてしまった。きっとまた怒られると思いながらも…


 そして僕とママは家へ着いた。

「先に手を洗ってうがいをしなさいね。」

ママはいつもこう言う。

「はーい。」

そして僕はいつもこう言い返す。もうお決まりの文句だ。それでも僕は反抗することなく、手を洗いとうがいをしてから部屋へ行く。

「ねぇ、ママ。」

「どうしたの?」

「今日さ、パパとお姉ちゃんにも絵本を読ませてあげるよ。」

「そう。きっと喜ぶわよ。」

夕飯の準備をしながらママはそう言った。するとお姉ちゃんが帰って来た。


 「ただいま。」

「おかえり、お姉ちゃん!」

「純子、手を洗ってうがいをしなさい。」

「わかってるよ!」

そう言うとお姉ちゃんは手を洗ってうがいをした。

「ねぇ、お姉ちゃん。」

「なぁに、奈音。」

「この前買ってもらった絵本を読ませてあげるよ。」

「うん。ありがとう。」

「ちょっと待ってて。今部屋から持ってくる。」

そう言って僕は部屋から絵本を持ってきた。

「はい、これ。」

「…」


 お姉ちゃんは絵本を読み始めた。きっと気に入ってくれると僕は思った。そうしているうちにお姉ちゃんは絵本を読み終えた。

「良い話だね。私好きだよ、この絵本。」

「僕も!今までで一番好きな絵本だよ。」

「ねぇ、奈音…」

「なぁに?」

「私の部屋に行こうか。」

「うん。」


 そして僕はお姉ちゃんの部屋へ行った。いつもは優しいお姉ちゃんだが、たまに意地悪なので少し心配だった。

「奈音、本当に月と話したの?」

「うん。空に行ったんだ。」

「夢でも見てたんじゃないの?」

「違うってば!」

僕は嘘をついていない。だから少し怒った。

「そんなこと出来る訳ないじゃない。」

「僕、嘘なんてついてないよ。」

「じゃあ、私も連れてってよ。」

「いいよ。」

「そしたらお父さんたちが寝たら奈音の部屋に行くね。」

「うん!」

そう言うと僕はお姉ちゃんを連れて三日月と会いに行く約束をした。するとママが部屋へ来た。


 「ふたりともごはんよ。」

「はーい。」

僕とお姉ちゃんはそう言うと一階へ降りていった。

「いただきます。」

「いただきます。」

「今日はカレーだ!」

カレーが好きな僕は嬉しかった。それよりもまた三日月に会えることが嬉しかった。そしてごはんを食べ終えると僕とお姉ちゃんは部屋へ戻った。するとお姉ちゃんが僕の部屋に来た。


 「奈音、入るよ!」

「うん。」

「本当に今日も行くの?」

「もちろん!」

僕はそう言った。お姉ちゃんは僕が嘘をついていると思っていたのだろう。

「あーぁ、早く夜遅くならないかな。」

「お姉ちゃんも楽しみ?」

「…うん。」

やっぱり疑っているようだった。


 そしてパパが帰って来た。

「ただいま。カレーの良い匂いがするな。」

「おかえりなさい。」

パパとママの会話が聞こえてきた。そして僕とお姉ちゃんはパパとママが眠るのを待っていた。夜も更けてきて、パパの寝室をこっそり覗くとどうやら眠っているようだった。


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