第10話
「今日もありがとうございました。あの…」
「あぁ、奈音くんですね?」
「はい。」
「大丈夫でしたよ。いじめに発展することはなさそうです。」
「今日は何をしていましたか?」
「ずっと絵本を読んでいました。」
「そうですか。奈音、そろそろ帰るわよ。」
「はーい。」
「それでは失礼します。」
そう言うと僕とママは帰っていった。
家へ着くと僕はママに聞いた。
「満月っていつか知ってる?」
「そうね…確かカレンダーに…」
「ねぇ、いつ?」
「今日から十日後みたい。」
「十日後かぁ…長いなぁ…」
「どうして?」
「ん…満月の日に約束したんだ。」
「それまでは会えないの?」
「うん。」
「どうして?」
「絵本に会い方が書いてないから…かな。」
「そう…」
ママは少し安心した様子と不安そうな様子が入り混じった表情をしていた。
そして夕飯を食べ始めた。
「いただきます。」
「いただきます。」
「ねぇ、奈音。」
「なぁに?お姉ちゃん。」
「まだ月と会ってるの?」
「うん。でも次は満月の日だよ。」
「それまでは?」
「会えないみたい。」
「変なの。」
「こら純子!やめなさい。」
「はーい。」
そんな会話をしているとパパが帰って来た。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
「みんな揃ってるし、先にごはんでも食べるか…」
「ねぇ、パパ、またギター教えて。」
「おう、いいぞ。」
「ごはん食べたら教えてあげるよ。」
「やったー!」
そしてごはんを食べ終えると僕はギターを教わった。前に教えてもらったEとAのコードは覚えていた。
「Eを弾くね。」
ジョロリーン。不安定だが音は鳴った。
「次はAを弾くね。」
ジョロリーン。また不安定だが音は鳴った。
「まぁ、初めはそんなもんだろう。」
「そう?」
「そうだよ。じゃあ今度はBを教えるね。」
「うん。」
「人差し指をこうやって…」
「うん。」
「中指でここを押さえて…」
「う、うん。」
「薬指でここを…」
「…」
「小指でここを押さえてBだ。」
「痛ててて…」
BというコードはEやAよりも難しかった。それを弾けるパパはすごいと思った。それでも満月までには聴かせたかったので僕は頑張った。
チョロリーン。やっぱりEやAよりも不安定な音だった。
「難しいよ、パパ。」
「あはは。頑張れ、奈音。」
「人差し指が痛い…」
「Bはちょっと早かったかな?」
「ううん。頑張るよ。」
それからも僕はコードを弾き続けた。
「そういえば明日は奈音の誕生日だな。」
「うん。」
「子供用のギターを買ってあげるよ。そうすればきっと上手く弾けるから。」
「本当に?」
「ああ。」
「わーい。」
僕は十日間でこの三つのコードを完璧に弾けるようになりたかった。きっと満月が喜んでくれると思ったからだ。
翌朝、僕は出発前のパパにこう言った。
「ギター忘れないでね。」
「ああ、わかってるよ。」
「じゃあ、いってらっしゃい。」
「いってきます。」
そして純子は学校へ行き、僕とママは幼稚園へ行った。
「おはようございます。」
「奈音くん、お誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」
「それでは今日もよろしくお願いします。」
「はい。」
そう言うとママはいつもと違う方へと行った。
「みんな、今日は奈音くんのお誕生日よ。」
先生がそう言うと幼稚園のみんなが歌ってくれた。
「ハッピバースデートゥーユー…」
歌い終わるとみんなが拍手をしてくれた。とても嬉しかった。少し前までいじめにあうことを不安に思っていただけに、すごく安心した。
それから夕方になり、ママが迎えに来てくれた。
「奈音。」
「はーい。」
「先生、今日もありがとうございました。」
「いいえ。それではお気を付けて。」
そう言うと僕とママは帰っていった。
「ママ、今日ね…」
「なぁに?」
「みんなが誕生日の歌を歌ってくれたんだ。」
「良かったじゃない。」
「うん。あとね…」
「ん?」
「その後に拍手もしてくれたんだよ。」
「あら、良かったわね。」
そんな話をしているうちに家へ着いた。ママは僕がいじめられていないことに安心した様子だった。
「今日は奈音の誕生日だからハンバーグにしたわよ。」
「わーい。」
すると純子が帰って来た。
「ただいま。わー、いい匂い!」
「今日はハンバーグだよ。」
するとパパも帰って来た。僕は楽しみにしていたギターをプレゼントしてもらえると思い玄関まで迎えにいった。
「おかえりなさい。」
「ただいま。はい、プレゼント。」
「わーい。ありがとう、パパ。」
そしてごはんを食べ終えると、家族でケーキを食べた。




