私の初失恋
風が強く、木々の葉がざわざわと
恐ろしく波立っている。
………今日は何か嫌な予感がするな。
ふう。
私の予感は当たるんだよね。
前に嫌な予感がした時のことだ。
兄が怪我をして部活の大会に
出れなくなった。
そして奈緒も怪我をして
大会に出られなかった。
カップル揃って仲良く見学だった。
私は当日2人に嫌な予感がすると
言っていたので、
2人は怪我をした後私を預言者のように
扱ってきた。
……今回の嫌な予感。
当たらないといいなあ。
今の私にとって嫌な予感とかって
芦屋くんに嫌われる事とかだ。
それ以外何だろ。
今日は怖いから学校休みたいや。
そうそう。
この前学校帰りに奈緒と出かけた時の事だ。
ショックな話を奈緒はしてきた。
「ねえねえ瑠衣。あのイケメン君、好きな子いると思うよ~♪」
私はその言葉を聞いた瞬間時が止まった。
確かに芦屋くんなんだから、
好きな子も彼女もいて当然だよね。
「私的に~、イケメン君の好きな子瑠衣だと思うんだよね~♪………あれ?瑠衣?ちょっと?聞いてる?おーーい。」
私は完全に自分の世界に
入ってしまっていた。
奈緒の言葉なんて全然聞こえてこない。
時が止まっているのに、
自分の思考は止まらない。
涙が出そうになる。
芦屋くんに好きな子がいるなんて
悲しくて悲しくてたまらない。
心臓を誰かに鷲掴みにされている気分だ。
「……う~~。」
奈緒は驚いた。
瑠衣がふるふると震えながらうなり、涙目になっている。
「え??ち、ちょっと瑠衣??ど、」
「奈緒!」
「へ!?は、はい?!」
「楽しもう!!私、ケーキ食べたい!」
「う、うん…。食べよ食べよ?」
瑠衣、イケメン君の話して欲しくないのかな。
もしや!
今日朝に瑠衣と別れてから
学校で何かあったんじゃないか?!
あのやろ~…!
そんな事を奈緒は思っているが、
原因は言うまでもなく奈緒だ。
だが、せっかくの久々の瑠衣との
買い物だ。
楽しもうと思い奈緒はイケメン君の事を口に出さずにした。
そして奈緒は次の日に帰って行った。
そして現在。
この前の奈緒の事といい、
今日の予感といい、
私の失恋真っしぐら。
落ち込むなあ…。
そんな事を思いながら
身体は心と裏腹に電車へと向かう。
こんな時こそ芦屋くんの笑顔が見たい。
大丈夫。
嫌な予感なんて所詮予感。
信じなければいいだけの話。
私は自分に言い聞かせ忘れる事にした。
キーンコーン……
休みの鐘が鳴り響いた。
【ふぅ。やっと終わったあ。そだ…。職員室行かなきゃ。】
瑠衣は担任に用事があったため、
教科書やらを片付けていた。
すると男子生徒の会話が耳に入った。
「おい!何か龍磨、好きな子いるらしいぜえ~!」
「まじ!龍磨が?!」
「あぁ。なんか勇太に話してるのを聞いちゃったんだよ。これまじだぜ!龍磨本気の顔してんの。あれは相当好きだな。」
「うおお!龍磨んとこ行って聞きにいこーぜ!」
「おーーう!!」
彼らは走り去って行った。
するとすぐに教室に戻ってきた。
「あの子達のどれかかな?!」
「龍磨の真ん前いた子じゃね!?ケバいけど、1番可愛いし!」
「だな!似合ってたしな~。」
2人ともとても興奮している。
そんな中私は立ち尽くしていた。
やっぱり…。
芦屋くん好きな人いるんだ…。
今廊下に出れば、
芦屋くんの好きな人が見れる。
…見たくない。
けど、
見たい……。
私の中で天使と悪魔が戦っている。
傷ついてでもいいから
見ちゃえ。
傷つきたくないなら
見るな。
私に何度も言ってくる。
結局悪魔が勝ってしまう。
どうしようもなく芦屋くんの
想い人を見たい。
きっと絶対に可愛い子。
傷つくのは分かってる。
でも、感情が抑えられない。
周りの音が聞こえない。
自分の鼓動の音と、
自分の震えている呼吸。
それしか聞こえなかった。
【…そうだ。早く職員室に行かなきゃ。行くしかないんだ…。】
私はA組の教室を出た。
ゆっくりと歩いた。
A組を過ぎ、
B組を過ぎ、
そしてC組だ…。
教室と廊下には窓ガラスがある。
ほんの少しチラッと見ただけなのに、
一瞬にして芦屋くんを見つけた。
芦屋くんの机の周りに可愛い女の子
3人グループが囲っている。
2人の女の子は鈴木くんと話しているが
1番可愛い、芦屋くんの真ん前に
いる子は笑顔で芦屋くんに話しかけている。
芦屋くんは机にうつ伏せになっていた。
それを可愛い女の子は、
頬をピンクに染めて見つめていた。
あの子…、
あの子も芦屋くんの事好きなんだね。
芦屋くんもあの子の事好きなのかな。
いいな。
そんな風に芦屋くんの近くにいけて。
芦屋くんに話しかけられて。
芦屋くんに好かれて……。
悲しくて悲しくてたまらなくなった。
涙が目にいっぱい溜まっている。
涙を落とさないように気を付けながら
私はトイレに逃げ込んだ。
そして声を押しこらえて涙を流した。
ぽろぽろと涙は止む気配がない。
……恋ってこんなに辛いんだ。
始めての恋だったから、
何にも知らなかった。
恋を知らなきゃ良かった…。
芦屋くんに会わなきゃ、
…………。
違う。
すごく辛くて悲しいけど、
芦屋くんを好きになれた事は
後悔していない。
芦屋くんを好きになれて良かった。
何より芦屋くんに出逢えて良かった。
芦屋くんに出逢えれた事に、
私は感謝しなきゃなんだよね。
それだけでも充分幸せな事なんだ。
そうだ。
芦屋くんが幸せなら、
それでいいじゃないか。
芦屋くんの幸せは、
私の幸せでもあるんだ。
それがどんなに自分には酷でも。
私は好きな人の幸せを願おう。
でも、
好きだから。
大好きだから。
今はまだ好きでいていいよね?