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ガラスの破片  作者: 絋羽
6/6

―出会いは突然―

「……寂しいの?」

 私の目の前で微笑んでいる少年は、私と変わらない位の歳に見えた。微笑から、隠しても隠しきれないほどの、大きな優しさが滲み出ている。


 綺麗に澄んだ目で、整っている鼻筋。――目の前に居る少年の姿は、美少年そのものだった。


 空を指差しながら、彼は私の隣に座った。


 ――これが、雅人と私の初めての出逢い。


「僕は、雅人。……二宮にのみや 雅人。君は?」

 差し出してきた手を握り返して、私は彼に笑顔を見せる。

 冷たくも、温かくも無い……爽やかな風が、私と彼の頬を優しく撫ぜた。


「桐生 春……です」

「ごめん、……嘘」

 ――うそ?

 私の言葉の後にすぐ続けて彼は言った。

苦笑を交えた表情で彼は、真剣に私を見つめた。


「“初めまして”じゃないよ、僕たち。君は僕の事知らないけど、僕は君の事知ってる。……桐生 春。歳は十五の中三……中等部一の才女と呼ばれてる子だろ?」

 私が、華南学園に通っていることを知っているような口ぶり。

「僕、そこの高等部の一年だから」

 名前だけは、聞いたことがあったような気がした。これだけ整った顔立ちをしていれば、目立たないはずも無い。


「ずっと、見てた。……僕の教室から、君の教室……見えるから」

 頬に笑窪を作って、彼は悪戯っぽく笑って見せた。

 光り輝く太陽が、私と彼を照らしている。


「――それって、どういう……」

「惚れている。君に」

 耳まで真っ赤にして、目の前に居る彼は私を見つめていた。

 ――何なんだろう? この気持ちは。

 温かくなるような、何かが……溢れてくるような。


「好きだ」

 彼は繰り返して、言った。

その言葉は、ゆっくりと……私の心に染み込んでいった。


『――完璧で、ありなさい』

 こう言ったのは誰だった? 耳にこびり付いて離れない声。

 誰からも必要とされていないと思っていた。

 私は邪魔な存在で、完璧でなければ誰も私なんか見てくれない。


 ――でも……私は、誰かに必要とされていた。誰かに、想われていた。

 それだけでこんなにも、温かで幸せな……気持ちになる。 


「――あり……っがとう」

 あふれ出てくる涙を、手で拭いながら……私は目の前で慌てている彼に告げた。

 「大丈夫?」と私の顔を覗き込みながら尋ねる美少年は、困った顔をしている。


「僕のせい? ……どうしよ、ごめん。なんか、びっくりしたよね……」

 あたふたとしている彼が、なんだかおかしく思えて、笑ってしまう。

 涙を流しながら、笑うのは……初めて。


 涙を流すのも、嬉しくて笑うのも……本当に、久しぶりな気がした。

「――やっと、笑ったね」

 そう、嬉しそうに笑った彼の姿は……私が小さかった頃の父様の笑顔にどことなく似ていた。

「僕が笑わせたの? 君を」

 嬉しそうの顔を綻ばせて、彼は私に尋ねる。

「好きな人が困っている時は、自分が一番助けたいって思うよ」

 温かい風が私と、彼を優しく包み込んでいた。



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