―出会いは突然―
「……寂しいの?」
私の目の前で微笑んでいる少年は、私と変わらない位の歳に見えた。微笑から、隠しても隠しきれないほどの、大きな優しさが滲み出ている。
綺麗に澄んだ目で、整っている鼻筋。――目の前に居る少年の姿は、美少年そのものだった。
空を指差しながら、彼は私の隣に座った。
――これが、雅人と私の初めての出逢い。
「僕は、雅人。……二宮 雅人。君は?」
差し出してきた手を握り返して、私は彼に笑顔を見せる。
冷たくも、温かくも無い……爽やかな風が、私と彼の頬を優しく撫ぜた。
「桐生 春……です」
「ごめん、……嘘」
――うそ?
私の言葉の後にすぐ続けて彼は言った。
苦笑を交えた表情で彼は、真剣に私を見つめた。
「“初めまして”じゃないよ、僕たち。君は僕の事知らないけど、僕は君の事知ってる。……桐生 春。歳は十五の中三……中等部一の才女と呼ばれてる子だろ?」
私が、華南学園に通っていることを知っているような口ぶり。
「僕、そこの高等部の一年だから」
名前だけは、聞いたことがあったような気がした。これだけ整った顔立ちをしていれば、目立たないはずも無い。
「ずっと、見てた。……僕の教室から、君の教室……見えるから」
頬に笑窪を作って、彼は悪戯っぽく笑って見せた。
光り輝く太陽が、私と彼を照らしている。
「――それって、どういう……」
「惚れている。君に」
耳まで真っ赤にして、目の前に居る彼は私を見つめていた。
――何なんだろう? この気持ちは。
温かくなるような、何かが……溢れてくるような。
「好きだ」
彼は繰り返して、言った。
その言葉は、ゆっくりと……私の心に染み込んでいった。
『――完璧で、ありなさい』
こう言ったのは誰だった? 耳にこびり付いて離れない声。
誰からも必要とされていないと思っていた。
私は邪魔な存在で、完璧でなければ誰も私なんか見てくれない。
――でも……私は、誰かに必要とされていた。誰かに、想われていた。
それだけでこんなにも、温かで幸せな……気持ちになる。
「――あり……っがとう」
あふれ出てくる涙を、手で拭いながら……私は目の前で慌てている彼に告げた。
「大丈夫?」と私の顔を覗き込みながら尋ねる美少年は、困った顔をしている。
「僕のせい? ……どうしよ、ごめん。なんか、びっくりしたよね……」
あたふたとしている彼が、なんだかおかしく思えて、笑ってしまう。
涙を流しながら、笑うのは……初めて。
涙を流すのも、嬉しくて笑うのも……本当に、久しぶりな気がした。
「――やっと、笑ったね」
そう、嬉しそうに笑った彼の姿は……私が小さかった頃の父様の笑顔にどことなく似ていた。
「僕が笑わせたの? 君を」
嬉しそうの顔を綻ばせて、彼は私に尋ねる。
「好きな人が困っている時は、自分が一番助けたいって思うよ」
温かい風が私と、彼を優しく包み込んでいた。