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ガラスの破片  作者: 絋羽
5/6

―崩れかけた世界―


「――それは、何故?」

 話が長くなりそうだと判断して、読んでいた本のページに枝折りを挟む。

 ――何故、僕なんかを好きになったの?

「……何故って、好きに理由が必要なの?」

 ただ、真っ直ぐに彼は僕を見つめていた。

 ――そんな目で、僕を見ないで。


「僕は雅人が、まだ……好きだから!」

 彼の視線から逃げるように、俯く。握っている本の表紙に視点を留めた。


「――でも、雅人は死んだ」

 知ってるよ。……だから、全てを遠ざけた。

 雅人を知っている人の傍に居ると、“想い出”にされてしまうから。


 心に描くのは、いつも雅人であってほしいから。

 ――本当は、理解わかっているの。


「――解ってるよ。だから、僕は葬式に行った」

  ――痛い。心が、ズキズキと疼いてる。


「葬式に行ったからって、雅人の死を受け入れたことにはならない」

 僕のすぐ後に、言葉を続ける。

 息をする事も許されないような、重苦しい空気が僕と彼の間に流れる。真っ直ぐに彼は、澄んだ瞳で僕を突き刺す。


「……さよならをしに、行ったんだ。……僕は、雅人に」


 * * * * *


「ま……さと?」

 青白く……冷たくなった、彼の頬に手を伸ばす。ひんやりとした彼の体温が、“私”の体温を吸収していく。

 ――嘘……でしょ。

 だって、ずっと一緒だって、私をずっと守ってくれるって行ったでしょ?

 なんだか“人間”じゃなくなったみたい。


「ねぇ、雅人……。起きてよ。こんなどうでもいい、冗談はいらないからさ! ねぇ……」

 雅人の顔を両手で包み込むようにして、雅人に声をかける。すすり泣く声と嗚咽がが、周りから聞こえてくる。

 ――変な冗談、やめて。

「春ちゃん」

 雅人のお母さんは、私を抱きしめて、涙を流した。温かい人の感触。

 抱かれた肩から、伝わってくる雅人のお母さんの手の温かさが、一層私を悲しみに誘う。


 ――雅人は、死んじゃったんだね。


『彼女を守って、死んだんでしょう? まだ、若いのに……可哀想にね』

『しっ! 聞こえるわよ』

 ――私を守って死んでしまったの

 私を守って、雅人は死んだ。……私のせいで、彼は死んだ。


 ――どうして、私なんか守ったの。

 “間違い”の私は、世界に存在しなくていいんだよ。

 雅人という螺旋が無くなった、私の世界は無秩序にただ組み立てられているだけで。

 動くたびに、軋む。

 ……雅人と過ごした、日々だけを糧に動き出す。崩れる日まで、永遠に――。


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