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ガラスの破片  作者: 絋羽
3/6

―夢の足跡―

しゅん。……僕は、世界で一番君が好きだよ』

 ――永遠の夢の中で君はそう言って、微笑んだ。

 傷ついた、罪深き僕を癒してくれる君の微笑み。

 触れるのが怖いほど、君は純粋で汚れを知らなかった。



『春、知ってる? 過ちを犯したことの無い、この世界には人間なんて居ないんだって』

 僕と雅人は、“過ち”だったのかな?

 僕のした事は、過ちだったのかな?

 ――教えてよ。

 ……でも、雅人。“過ち”はやがて罪になるよ。


『早く僕の事は……忘れろ』

 ――君の姿は、蜃気楼?

 刹那に見えた永遠に、僕は縋りつき涙を流す。

 君がほしいと甘く疼く、この痛みだけが僕と君に残された最後の絆。


 * * * * *


 冷たい頬に手を当てながら起き上がると、そこは殺風景な部屋だった。

 コンクリートの鉄筋が見え隠れしている、この部屋で僕は雅人の居ない日々を過ごしていた。

 雅人との、想い出の場所だから。


「……僕も一緒に、連れて行ってくれればいいのに」

 そっと呟いた言葉は、虚空へと吸い込まれていった。

 僕はあふれ出てくる冷たい涙。頬を通過して、足跡を残していく。

 カーテンの隙間から、差した眩しい朝陽は君の笑顔に少しだけ似ていた。



 ――夢の中の君は、そういって……早く自分を忘れさせようとする。

 本当は、違うんだろ? 忘れて欲しくないんだろ?

「何なんだよっ!」

 近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。行き場の無い想いに、結ばれることの無いこの恋に、僕は一体どれくらい……苦しめられるのだろう。


 ――こんなに、好きなのに……。

「どうしてっ! どうして逢えないの! ……こんなに、好きなのに。こんなに、愛しているのに」

 ――胸を鷲掴みされたような、激しい痛み。愛しい愛しい、愛の絆。


 

 自分の嗚咽だけが響く、“無”の空間で、タイミングを知らない電子音が部屋に響いた。受話器に耳を傾ける。

 聞こえてくる音は、僕を違う世界に行けるような錯覚。

「はい」

『……春? 来月分の生活費、振り込んでおいたから。たまには、家にも顔を出しなさい? ……あんな事があって、家に帰りたくないのは分かるけれど、いい加減になさいね』

「分かりました。お金、有難う御座いました。……失礼します」

 母親の言う事に耳を傾けることもしないで、強引に電話を切った。

 ――親不孝だと、お思いですか? ……お父様。

 携帯電話をゴミ箱に放り込む。


 ――完璧。

 これが、母親あのひと父親たちの口癖だった。

 完璧であったなら、あなた達は認めてくれましたか?

 僕が完璧であったなら“桐生”の名をを継ぐ事が出来ましたか?


 * * * * *


 君の夢を見た日を境に、心に穴が開いたように僕は何も考えられない日々を送っていた。

 ――いや、何も考えない日々を送っていた。考えたくなかったから。

 酒を飲んでは、潰れて荒れ果てた。

 世間では“不良”と呼ばれ、蔑まれている人たちとよく、接触するようになっていた。

 どんなに酒を飲んでも、酔い切れない自分。


「全て……壊れてしまえばいいのにな」


 雨降りの今日。

 ――アナタは今、何をしていますか?



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