―隠していた気持ち―
灼熱の太陽が、僕を照らしていた。
当たり前の様に平等に光を与えてくれる太陽が、とても疎ましく感じた。
罪深き僕は、太陽の光を浴びることも許されない気がする。
――生きていることさえも、許されない僕。
……でも、君は言ったから。“生きろ!”って言ってくれたから。
眺めのいい此処は、僕の好きな場所の一つ。僕だけの場所。
外のドアに、“立ち入り禁止”と書いてある紙が張られているから一般生徒が、入ってくることは無い。
背伸びして、青空を見る。
皮肉にも空は、あの日と同じように青々と澄んでいた。
「おー、居たぁ! あの噂は、本当だったんだ」
脱色された髪の派手な格好をした少年が、大げさなリアクションをしながら入ってくる。
突然の事に驚いて、僕は入ってきた彼を黙って見つめていた。
人懐こい笑顔を僕に向けながら、彼は僕の目の前に腰を下ろす。
首や耳や指などに付けられている、シルバーアクセサリーが太陽に反射して、キラキラと輝いている。反射する光に目を細めながら、僕は彼を観察するように見つめた。
「知ってる? 美女が、屋上に居るって噂」
髪の毛をくしゃくしゃと触りながら、彼は言う。ふわりと香った、彼の香りが、僕の鼻を優しくくすぐる。
「……知らない」
立ち上がって、「それじゃあ」と、冷たく彼に告げた。
――罪深き僕は、人と関わることは許されない。
たとえ、神様が僕を許しても、僕は僕自身を許さない。
「待って! ……あんたは、雅人を知ってる?」
強い力でしっかりと、掴まれた腕。腕から伝わってくる、彼の温かい体温が僕を闇へと引き摺り戻した。
――それ以上、話さないで。
「――離して!」
思い切り僕は、彼の腕を振り払った。動悸が止まらなくなって、呼吸をすることさえも苦しくなってくる。
――“想い出”に変換させないで。あの日紡いだ言葉を、感じた気持ちを。
雅人との想い出は私だけのモノ。
雅人を知る人と、触れ合えば無理矢理にでも“想い出”に変換させようとする。
――だから、すべて遠ざけた。……雅人と僕の間に踏み込んでくる人なんか、要らない。
僕を取り巻く環境全てが、僕を否定する。
雅人と僕が紡いだ時間を消し去って、進んでいく。
歯車が少しずつ、回る。
あの日のまま、僕を待っている君を置いて僕は前へを進んでいく。
明日を求めて生きるなら、君を僕は裏切ることになるだろう。
いつも思い描くのは、君との思い出。
真っ白なキャンパスに、君と紡いだあの日々をぎっしりと書き連ねていく。
――そうでもしないと色褪せてしまう。……君を“想い出”に変えてしまう。
派手な少年は、驚いたように目を見開いて僕を見つめていた。
――僕を、置いていかないで。
僕は、少年を睨みつける。これ以上、僕に近づいて欲しくなくて。
僕と雅人の間に入ってくる奴なんか、要らない。
重たい体を引きずって、僕は屋上から逃げるように立ち去った。
――嗚呼……
自嘲的な乾いた笑いが、僕の口から零れた。
――忘れるつもりは……無いよ。君は、永遠を見せてくれたから。
君が居ない世界は、ガラスの破片で出来ているみたいだった。
全てが痛くて、痛くて仕様が無かった。
――時間という歯車は、今もずっと動いている。
息も苦しくなるほどに、身体中が君の温もりを求めてる。