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第五章:ライトニングハート

別れてから、季節がひとつ変わった。


雷の鳴らない日々は、思ったより静かで、思ったより苦しかった。

駅前を通るたび、無意識に傘を探してしまう自分がいる。


もう、隣に誰かはいないのに。


仕事に集中し、友人と会い、いつも通りの生活を送った。

それでも、夜になると、胸の奥が微かに疼いた。


雷ではない。

もっと弱くて、長く残る痛み。


「時間が解決する」


誰かがそう言った。

でも時間は、消してくれなかった。ただ、形を変えただけだった。


ある晴れた日、突然の夕立に遭った。

雷は鳴らず、雨だけが静かに降っている。


私は、駅前の屋根の下で立ち止まった。

傘は、持っていなかった。


「……変わってないな」


聞き覚えのある声がした。


振り向くと、直人が立っていた。

少し痩せたようで、でも、表情は前より穏やかだった。


「久しぶりです」


それだけで、胸が熱くなった。


「今、少しだけ……話せますか」


私は、うなずいた。


カフェでもなく、どこか特別な場所でもなく、

ただ雨宿りのための屋根の下。


「あなたと別れてから、考えました」


直人は、まっすぐ私を見ていた。


「失うのが怖くて、

最初から距離を取っていたこと」


言い訳でも、懺悔でもない声だった。


「守れなかった過去より、

守ろうとしなかった自分のほうが、ずっと怖かった」


私は、黙って聞いていた。

途中で言葉を挟んだら、何かが壊れる気がして。


「もう一度、なんて言いません」


彼は、静かに続けた。


「ただ……

あなたを好きだったことだけは、

間違いじゃなかったと伝えたくて」


その言葉で、胸の奥が震えた。


雷が鳴った。


小さく、遠くで。


私は、初めて、耳を塞がなかった。


「私も」


そう言って、息を吸った。


「あなたを好きになったこと、

後悔していません」


それだけで十分だった。


雨は、少しずつ弱くなっていった。


雷は、今も好きじゃない。


でも、怖くはなくなった。


突然心を揺さぶり、


逃げ場をなくし、


それでも確かに、生きている証を残していく。


恋も、同じだと思う。


傷つくかもしれない。


失うかもしれない。


それでも、心が鳴るなら。


私は、次の雷を恐れない。


あの日、傘の下で始まった感情は、


今も胸の奥で、静かに光っている。


雷のように一瞬で、


でも確かに人生を変えた恋。


それが、


私の ライトニングハート。


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