第16章 5. 王都を出発
ニャンフレア号の荷物はすべて固定され、チームは王都の門をくぐった。
石畳を抜け、街のざわめきが遠ざかると、野の風が頬をなでる。
「いよいよ出発ですわね! なんだか冒険のにおいがしますの♡」
ティティは窓から身を乗り出し、風にスカートをばたばたさせている。
「冒険じゃなくて“仕事”だからな。忘れるなよ」
ライクは手綱を握りながら苦笑した。
しばらく進むと、街道脇の茂みからがさりと音がした。
ルーンの耳がぴくりと動く。
「おい、なんかいるぞ」
次の瞬間、茂みから小さな魔獣が飛び出した。
体長は犬ほど、毛を逆立て、牙をむいている。
「きゃっ!」
馬が驚いて立ち上がりそうになる。
グレンが無言で荷台から飛び降り、盾を構えた。
ルーンも素早く前に出て、短剣を抜く。
「へっ、ちょっとしたお出迎えってやつか!」
魔獣が飛びかかるが、グレンの盾に弾かれて地面に転がる。
そこへルーンが横からすばやく突っ込み、器用に短剣の柄で頭をはたいた。
「にゃはっ☆ これでおやすみだな!」
地面に気絶した魔獣を見て、ティティはぱちぱちと手を叩く。
「お見事ですわ! ……でも、毛皮ちょっとかわいいですわね。持って帰ってもいいかしら?」
「ダメに決まってんだろ!」
ルーンが即座に突っ込んだ。
ミーナはそっと目を閉じ、祈るように両手を組む。
「ふふ……神さまが“これはただの道草です”って仰ってます〜」
「……妙に説得力あるな」
ライクは肩をすくめ、再び手綱を握った。
ニャンフレア号は魔獣をやり過ごし、再び街道を進み始める。
遠くの地平には、雲の切れ間からうっすらと巨大な影――降下しつつある浮遊大陸が姿を現していた。
「見えてきたな……」
ライクが小さくつぶやく。
仲間たちの胸に、緊張と期待が入り混じった。




