第16章 3. 受けるか、受けないか
ギルド本部を出たあと、一行はニャンフレア号の中で顔を合わせた。
契約書はライクの手の中にある。
「……どうする?」
ライクの問いに、誰もすぐには答えなかった。
ティティが腕を組み、ツンと顎を上げる。
「引っ越し屋に“調査依頼”なんて……少しずれてますわね。
でも、倉庫に眠る“貴重なお宝”を扱えるのは、わたくしたちくらいじゃありません?」
ルーンがすかさず反論する。
「いやいや、オイラたちの仕事は“運ぶ”だろ。倉庫の記録なんざ、学者にやらせりゃいいんだ」
「でも学者さん、罠にかかったら一発で退場ですわよ?」
ティティが杖を振りながらにやりと笑う。
「わたくしなら火を吹かせて一網打尽にできますの♡」
「やめろ、荷物まで燃える!」
ルーンが即座に突っ込む。
ミーナはのんびりと微笑んで、湯気の立つカップを両手で包んでいた。
「ふふ……神さまが、“それは運ぶことと同じですよ”って仰ってます〜。
荷物を安全に届けるためには、中身を確かめることも大事なんです」
グレンは無言のまま、荷物用のロープを整えていた。
視線を上げず、ただひとつうなずく。
ライクは深く息をついて、契約書に視線を落とす。
「……確かに、俺たちはただの運び屋じゃない。
今まで、普通の業者が逃げ出すような依頼をいくつもやってきた。
だったら、今回も同じだ。倉庫の調査だろうが、運搬だろうが――“運ぶ”ことに変わりはない」
ティティがぱちんと手を打つ。
「決まりですわね! さあ、“特別依頼対応センター”の出番ですわ!」
「いやだから看板勝手に変えるなって……」
ライクが苦笑する横で、ルーンもしっぽを揺らしながら肩をすくめた。
「まあ、面白そうだしな。行ってやろーじゃねえか」
こうして、“元・勇者引っ越しセンター”は浮遊大陸への調査依頼を正式に受諾したのだった。




