第16章 2. ギルド本部の呼び出し
ギルドからの使者に導かれ、一行は王都中央区のギルド本部へと足を運んだ。
大理石の床に高い天井。忙しそうに書類を運ぶ職員たちの姿が目につく。
「うわ〜……ここ、広すぎますわね。ティティのお部屋十個分くらいありますの」
「十個で足りるのか……」
ライクは小さくつぶやきながら受付に目を向けた。
職員が彼らを会議室へと案内すると、分厚い資料を抱えた担当官が姿を現した。
四十代ほどの男で、銀の肩章が光っている。
「お待ちしておりました。“元・勇者引っ越しセンター”の皆さん。……どうぞおかけください」
ライクたちは椅子に腰を下ろす。
担当官は資料を机に広げ、真剣な表情で言葉を続けた。
「先日、大陸が空から降下を始めた件……その影響で王都も大きな混乱に直面しています。
物資の不足、避難民の流入、記録庫の混乱。王国は今、前例のない事態にあります」
ティティが小声でルーンの耳元に囁いた。
「ねえねえ、“記録庫の混乱”って……本が爆発したりしてますの?」
「そんなドタバタじゃないと思うけど……まあ、ありえそうで怖いな」
二人のやりとりに、ライクはこほんと咳払いして黙らせる。
担当官は机の中央に、一通の契約書を滑らせた。
「そこで……君たちにお願いしたい。浮遊大陸の外縁部に設けられている“倉庫群”の調査です」
ライクが眉をひそめる。
「調査? ……おれたちは引っ越し屋だぞ」
担当官はうなずき、淡々と理由を説明した。
「はい。調査と言っても単に中を見て歩くわけではありません。
倉庫に保管された記録や物資を確認し、必要に応じて搬出する。
だが中には、魔導封印や呪文仕掛けのある“特殊な荷物”も多い。
普通の職員では危険すぎる。……しかし、あなた方なら扱える」
ルーンがにやりと笑って胸を張る。
「つまりオイラたち、“変わり者対応専門センター”ってわけだな☆」
「そんな看板出してないけど……まあ、言い得て妙かもしれん」
ライクは小さく肩をすくめた。
「それに、君たちは実績もある。魔王城の整理、喋る城の引っ越し……普通の業者にはできないことを、いくつもこなしてきたはずです」
ミーナが両手を胸の前で合わせ、柔らかく微笑む。
「たしかに……“誰もできないお仕事”って、神さまも大好きですものね〜」
ティティはぴょんと椅子の上に立ち上がり、くるっと一回転して宣言した。
「わたくしたち、特別なお仕事も引き受けますわ! ……お給料がちゃんと出るなら♡」
担当官は思わず苦笑しながらも、深くうなずいた。
「では……正式に依頼をお願いします」




