第15章 5. 落ち着いた声と余韻
庭を走り回る追いかけっこは、夕方まで続きそうな勢いだった。
だがミーナがそっと両手を組み、やわらかい声で祈りをささげた。
「神さまが、“ここで落ち着きなさい”っておっしゃってます〜」
その瞬間、犬も猫も鳥も、不思議なほど大人しくなっていく。
小型ドラゴンも、くるりと一回転してから庭の真ん中に降り立った。
「す、すごい……ほんとに静かになりましたわ」
ティティが杖を下ろし、ほっと胸をなでおろす。
依頼主の夫婦は目を潤ませながら頭を下げた。
「本当にありがとうございました。あの子たちも、これで安心して新しい家で暮らせます」
「またペットが増えたらお願いしますね」
夫婦の言葉に、ティティはがくりと肩を落とした。
「つ、次は人間限定にしてくださいまし……」
「いや、絶対また呼ばれるぞ」
ルーンがしっぽをふりふりしながら苦笑する。
ライクは金魚鉢を荷台に収めて、静かに言った。
「……まあ、動物も荷物も、運ぶのは変わらねぇな」
グレンは無言でポケットに何かをしまった。
それは、犬がじゃれて差し出してきたボロボロのボールだった。
夕暮れの風が庭を通り抜け、どこか満ち足りた静けさを運んでいく。
“元・勇者引っ越しセンター”の今日の仕事は、にぎやかな鳴き声と笑いに包まれて、ようやく幕を閉じた。




