第14章 3. 天空の倉庫となる
「戦が終わり、世にひとときの平穏が戻ると……人々は気づいたのじゃ」
老書庫番は静かに言葉を重ねた。
「空に浮かぶその大陸は、誰も手を出せぬ場所。
ならば――地上に置いては奪われる宝を、そこへ運べばよいと」
ティティが目を丸くする。
「宝……って、どんなものですの?」
「古代文明の遺物、国々の神器、禁じられた魔導書……そして、勇者たちの記録まで。
地上にあれば争いを呼ぶものを、すべて“空の倉”に集めることとなった」
「なるほど……安全のために、ですか〜」
ミーナは合点がいったように小さくうなずいた。
老人はゆっくり首を振る。
「安全であったのは、ただ“魔物が入れぬ”からだ。
浮遊大陸への出入りは、人間にしか扱えぬ大規模転移術に限られておった。
その術は血と契約に縛られ、魔族は触れることすら叶わん」
「つまり……人間だけが出入りできる“世界一の金庫”になったってわけだな」
ライクが低くつぶやく。
「その通りじゃ」
老人の声は重くなった。
「浮遊城は、ただの城にあらず。人類の命運を預かる倉庫……いや、“世界の金庫”と呼ばれるようになったのだ」
ティティは両手を腰に当て、ふぅんと鼻を鳴らした。
「おしゃれな呼び名ですけど……中身はごちゃごちゃしそうですわね。
“世界の倉庫整理”とか、だれがやってたんですの?」
「代々の守護者たちが、己の一生をかけてな」
老人は遠い目をした。
「それでも、すべてを守り切れたわけではないが……」
ライクはその言葉に小さく眉をひそめた。




