第14章 2. 大陸が浮かんだ日
老書庫番の声は、低く静かに響いた。
「大陸が空へ持ち上げられたのは、もう遥か昔のことじゃ。
地上を覆った大戦争の終わり……人も魔も、限界まで戦いを重ね、互いに滅びかけておった」
ティティが身を乗り出す。
「つまり、戦争であの大陸が……?」
「正確には、大戦を止めるために放たれた禁呪の一つだ」
老人は瞼を細め、記憶を手繰るように続けた。
「大地に眠る浮遊石が目を覚まし、膨大な魔力が溢れ出した。
そして、大陸の一部が切り取られるようにして……そのまま、空へ昇っていったのじゃ」
ライクは思わず拳を握った。
「戦争を終わらせるために、大陸を浮かせた……?」
「そうとも。地上に残してはならぬものを、空へと退けるためにな」
老人は杖の先で石畳を軽く叩いた。
「人々は最初、それを“神の奇跡”と呼び、誰も近づこうとはせなんだ。
だがやがて、そこに城を築き、守りの塔とした。……それが浮遊城じゃ」
「最初から“倉庫”だったわけではないんですね〜」
ミーナが小首をかしげる。
「うむ。あれはまず、“最後の避難所”だったのだ」
老人の目は遠くを見つめていた。
まるで、まだ空へ昇ったばかりの大陸が、そこに浮かんでいるかのように。




