第14章 1. 王都の片隅にて
王都の空は、昨日よりも低く影を落としていた。
見上げれば、浮かぶ大陸の輪郭が雲間からはっきりと覗いている。
「……やっぱり、大きくなってますわね」
ティティが眉をひそめ、窓の外を見上げた。
「気のせいじゃねぇな」
ライクは腕を組み、街を歩く人々のざわめきに耳を傾ける。
「誰もが気づいてる顔してる」
市場では、魚を並べる店主が客に言っていた。
「昨日より影が濃ぇんだ。もう落ちてくるんじゃねぇかってよ」
「落ちてきたら……倉庫の中身、どうなるんですの?」
ティティが口を尖らせる。
「……神さまは、“人が守るべきものがある”って仰ってました〜」
ミーナが胸の前で両手を合わせると、通りすがりの老婆がうなずいて口を開いた。
「あんたら、知りたいのかい? 空の倉のことを」
振り返ると、背を曲げた老人が杖をついて立っていた。
王立大図書院の紋章を胸に下げた、古びた外套の書庫番だ。
「わしは長く書物を守ってきた。……浮遊大陸のことも、語り継がれておる限りは覚えておるよ」
「聞かせてもらえませんか」
ライクが一歩前に出る。
老書庫番は静かにうなずき、目を閉じた。
「ならばよい。あの大陸が空に昇った、その始まりから――」




