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第13章 5.帰路〜旅の余韻
港町の喧騒が遠ざかるにつれ、海風の匂いも少しずつ薄れていく。
ニャンフレア号は石畳を離れ、なだらかな丘を越えて帰路についた。
荷台では、ティティが港で買ったお土産をひとつずつ取り出しては自慢している。
「見てくださいませ〜! この魚クッキー、全部形が違うんですの♡」
「形はどうでも味が大事だろ」
ルーンは干物を抱えたまま、満足げにしっぽを揺らす。
ミーナは港の小教会で買ったお守りをそっと胸にかけ、
「これでしばらく、旅の安全は神さま保証です〜」と笑った。
御者台では、グレンが無言で手綱を引きながら、時折空を見上げる。
ライクも視線を上げると、遠くの雲間にぼんやりとした巨大な影が浮かんでいた。
「……さっきより、やっぱり近いな」
小さく呟いた声は、風にさらわれて誰にも届かない。
丘を下れば、王都まであと少し。
馬車の揺れに合わせて、荷台から笑い声がこぼれる。
波音の代わりに車輪の音が響き、旅の終わりを静かに告げていた。
穏やかな風の中、センターの初めての“社員旅行”は、
笑いと小さな影を残して幕を下ろした。




