第12章 5.港町の宿へ
日が傾きはじめたころ、ニャンフレア号は港町の石畳をゆっくりと走っていた。
潮の香りが濃くなり、波の音が街のざわめきに混ざって聞こえる。
「わぁ〜っ……海がきらきらしてますの♡」
ティティが窓から身を乗り出し、夕陽に染まる水面を見つめる。
「魚……!」
ルーンの瞳も同じ方向に釘付けだ。
港町の外れ、小高い丘の上に、その宿はあった。
木造三階建ての建物は白い壁と深緑の屋根を持ち、
崖下には港と広い海が一望できる。
「本日お泊まりいただく“潮見の湯”でございます」
出迎えた宿の主人は、笑顔で深く一礼した。
館内は磨き上げられた廊下と、潮風が通り抜ける大きな窓が印象的だ。
客室は海側と山側に分かれ、どちらからも景色が楽しめる造りになっている。
「こちらがお部屋でございます」
案内された海側の部屋は、窓を開けると真下に港の灯がきらめき、
遠く水平線の上には、かすかに浮遊大陸の影が見えた。
「……さっきより、近くないですか?」
ミーナが小声で呟くが、ティティはすでに窓際でポーズを取りながら
「明日の朝はここで写真撮りますの!」と張り切っている。
夕食まで少し時間がある。
荷を解いた一行は、それぞれ自由時間に散った。
ティティとミーナは温泉の下見へ、
ルーンは港の魚屋へ、
グレンは無言で宿の周囲を一周し、
ライクはバルコニーに立って海風を受けていた。
このあと訪れる“お湯の時間”が、
思いがけず賑やかで、少しだけ特別なひとときになるとは——
この時のライクは、まだ知らない。




