第12章 3. 空に浮かぶもの
寄り道の細道は、やがて緩やかな丘へと続いていた。
道の両側には季節の花が咲き乱れ、馬車が通るたびに甘い香りが風に混じる。
「ほら見てくださいませ〜! 色とりどりでまるでお菓子みたいですわ♡」
ティティが窓から身を乗り出す。
「食べられないからな、それ」
ライクは苦笑しつつも、手綱をゆるめた。
丘の頂にさしかかると、視界が一気に開けた。
眼下には青い海、その向こうに小さく港町の屋根が見える。
だが、ティティの目はさらに上——空の方へ向いていた。
「……あれ、雲じゃありませんわよね?」
全員がつられて見上げる。
澄んだ青空の中央、はるか遠くに巨大な影が浮かんでいた。
雲よりもくっきりとした輪郭、底面には白くきらめく帯のようなものが広がっている。
「……浮遊大陸、だな」
ライクの声は低い。
「神さまが“あれはお引っ越し中です”って……」
ミーナがゆるやかに微笑む。
「引っ越し中って……空ごと動くのか?」
ルーンが耳をぴくりと立てる。
風が少しだけ強くなり、ニャンフレア号の帆布がぱたんと音を立てた。
「ま、いまは旅行中だしな。あれのことは置いとこう」
ライクがそう言って手綱を軽く引くと、馬車は再び丘を下り始めた。
港町までは、もうすぐだ。




