第12章 1. 行き先はどこに?
センターの朝は、今日もにぎやかだった。
「おにーさま! たまには休暇を取るべきですわ!」
ティティがテーブルの上に地図を広げ、勢いよく指を突き立てる。
その先には、きらびやかな装飾が施された温泉地の絵。
「ここっ! 海の幸もおいしくて、絶景の露天風呂がある高級温泉宿ですわ!」
「温泉か……悪くないな」
ライクはスープをすすりながら、ちらりと地図に目をやる。
「オイラは港町がいい! 魚食べ放題、干物詰め放題、魚屋めぐり三件は行く!」
ルーンは椅子の上で立ち上がり、しっぽをぶんぶん振る。
「わたしは……そうですねぇ、歴史ある教会がある場所ならどこでも〜。
お祈りすると、旅の安全もきっと守られますから」
ミーナはにこやかに、湯気の立つカップを両手で包んだ。
「……」
グレンは無言で地図を一瞥し、黙って山奥の一点を指差す。
「えっ、それ……“狩猟エリア”って書いてありますわよ!?」
ティティが目を丸くする。
「……鹿が出る」
「理由がシンプルすぎますの!」
結局、みんなの希望を中途半端に叶える場所を探すことになった。
港町で魚も食べられて、近くに温泉宿があり、
少し足を伸ばせば古い教会もある——そんな場所。
「じゃあ、そこに決定だな」
ライクが地図を折りたたむと、ティティは満面の笑みを浮かべる。
「ニャンフレア号、いよいよ初の社員旅行ですわ! わたくし、荷物は三倍持っていきますの♡」
「旅行って言っても……あくまで“お試し遠距離運行”だからな」
「おにーさま、そういう細かい条件付けは聞こえませんわ!」
ルーンは「魚……!」とつぶやきながら、既に魚用の買い物リストを作り始めていた。
ミーナは旅のおやつと祈祷用の小道具を整え、
グレンは黙々とニャンフレア号の点検に取りかかる。
こうして、センター初の“仕事抜き旅行”が——
少しだけ、にぎやかすぎる準備とともに始まった。




