第11章 5. カインの本音
返却任務は、驚くほど穏やかに終わった。
屋敷の主人はお茶と菓子で見送りまでしてくれ、何事もなかったように夜は更けていった。
センターの面々が拠点へ戻った頃には、東の空が少し明るみ始めていた。
「……ご苦労だったな」
玄関先に立っていたのは、カインだった。
外套を羽織り、手には小さな包みを持っている。
「……これ、礼だ。中身は大したものじゃないが」
ライクは受け取りながら首を振る。
「礼なんていい。今回はオレたちの方こそ、返したいものがあったんだ」
「返す?」
カインが片眉を上げる。
「……最初の依頼、覚えてるだろ。
あんとき、おまえが仕事をくれなかったら、センターは始まってなかった」
ライクはそう言って、わずかに笑う。
「今回は、その借りを返しただけだ」
カインは一瞬だけ目を細め、それから肩で短く笑った。
「……そうか。なら、借りは相殺ってことにしておこう」
ティティがソファの背から顔をのぞかせる。
「え〜、でもケーキ代は別ですわ♡」
「ケーキ?」
「お礼といえばケーキですの! おにーさま、そういうの大事ですわよ!」
カインが小さくため息をつく。
「……今度な」
「やった〜!」
ふと、カインは視線を落とし、小さくつぶやいた。
「あの部下……孤児院の出だ。あいつなりに必死にやってきたが、余計な真似をした。
処分は軽く済むだろうが……記録に残らない形で片付けたかった」
その言葉には、硬さと温かさが入り混じっていた。
「……あいつは、またやり直せるさ」
ライクの言葉に、カインは短くうなずく。
「お前がそう言うなら、そうなんだろうな」
そのまま踵を返し、夜明けの街へと歩き出す背中は、以前と変わらぬ真っすぐさだった。
扉が閉まると、ティティがにやりと笑った。
「やっぱりカイン様って、ちょっとかっこいいですわね〜」
「おまえ、さっきまでケーキしか言ってなかっただろ……」
ルーンの突っ込みが、夜明けの空気に軽く響いた。




